名前もわからないけれど
生け垣に絡んでいる小輪のバラが
咲きはじめた。
モッコウバラも
白い一重のオールドローズも
コクテールも
あっという間に咲いて
あっという間に散ってしまった。
芍薬も藤も桐も、
大好きなキウイフルーツの花も。
やっぱり花たちが
とても早足で
わたしの心はいつまでたっても置いてけぼり。
それはともかく、
たとえばこんな
たぶん野鳥が運んできた
名前も知らないバラであっても
あでやかな大輪であっても
「バラの花」を見ると
ほとんど条件反射のように
もう絶対に
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの
『星の王子さま』を思い出す。
王子さまを、
そして彼のバラの花を想う。
美しく魅力的だけれども
わがままで寂しがりやでプライドの高い
奔放なバラ。
気むずかしいお姫さまぶりを
これでもかと発揮しつつ
いい香りで王子さまを包みこみ
彼の小さな星を
明るく照らしたバラ。
彼女のわがままに疲れて
別の星へ旅に出ても
たった一輪のバラの咲く
ふるさとの星のことばかり考えている王子さま。
それが自分にとって
どれほど大切な花だったのか
泣きながら訴える王子さま。
そうして
星の王子さまは
わたしが出会うすべてのバラを
より美しく
より特別な花にする。
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