「あの頃は此処に毎日の様に通ったなぁ」
と独り言を云いながら、ハローワークを横目に通り過ぎた。
何の特技もスキルも皆無の吾は、面接に応募するも悉く弾かれた。
食って行く為には何でもやらねばならぬと思いつつも、専門職や技術職はおろか、交通誘導員、鳶職、土方(建設業)とコンビニ店員だけは選択肢に入れなかった。
其れは何故かと云えば、無能な吾には出来ないからだ。
特に鳶職は、とっぽい兄ちゃんが殆どだ。
主に建設、建築現場の足場を組む仕事だが、此れがとても大変な仕事だ。
吾の職場が、倉庫の大幅改装をした際に、足場を組みに6人ほどやって来た。
作業をする其の横で機敏に動く若者達。
リーダーの怒声に、
「はい!」
「すみません!」
「ありがとうございます!」
と歯切れのある通る声で応えていた。
吾々にも礼儀正しい。
とても気持ちの良い立ち振る舞いである。
あるリーダーの掛けた言葉は今も忘れられない。
「締め忘れするなよ! 足場が崩れたら作業する方の命取りになるからな!」
足場を組む者が1ヶ所のクランプのナットの締め付けを怠れば、足場は崩壊するのである。
他人の命を預かる仕事であるから、作業時は緊張でピリピリしていた。
いや、仕事は此れが大事である。
本当に頭が下がる仕事ぶりであった。
吾の職場にスマホをいじって作業をサボる30代の馬鹿とは大違いである。
「職種が違うからと」
と云った奴がいた。
いや、仕事に向かう姿勢は同じであり、同じでなければならない。