特別なRB10

昭和の東武バス野田の思い出や東京北東部周辺の乗りバスの記録等。小学生時代に野田市内バス全線走破。東武系・京成系を特に好む

路線バスの塗装とナワバリと船橋で見た新京成バス

2017年09月24日 22時26分32秒 | 旅行
小児運賃でバスに乗れる最後の歳、小学6年生の冬休みのある日。
世間は師走ということで慌しくなっていましたが、
わたくしは野田市内のバス路線を片っ端から乗りつぶしたのに飽き足らず、
越谷とか大宮などといった市外の東武沿線まで足を伸ばして路線バスの旅を楽しんでおりました。

そのなかで非常に印象深いできことがありました。

わたくしは東武沿線のバスというのは皆等しく東武バスが支配しているものと思っていました。
東武野田線の終点の大宮でも東武バスがいました。では船橋にも東武バスがいるであろう、
なにか一路線乗りつぶしてやろう、という意気込みで野田線に乗り船橋へやってきたのです。

かねてから船橋には「東武百貨店」なるものがあると聞き及んでいたので、
駅があって百貨店があればおのずとバス路線もあるものと思っていました。



生まれて初めて来た東武船橋駅はキオスク一つなく随分殺風景な駅だなと思いましたが、
東武百貨店の看板がかかっていてなにか安心するものがありました。東武百貨店の看板は青地に白抜きの丸いデザイン書体でした。

 
百貨店のトイレで用足しをして「バス乗り場」と書かれた案内板の矢印に従って外へ出ると眼下にバスの群れが見えました。
当時は歩道デッキもなにも無いのでよく地上を見下ろすことができました。


東武百貨店の外通路には白くて太い柵があったので手を掛けて地上を見ると、
来るバス来るバスみな野田では一度も見たことの無い塗装色をしていて待望の群青色の東武バスが一向現れません。

そのバスたちは緑とも言えず黒とも言えずCMY全部混色させたような不思議な色味をしており、
野田のバスとは前面ガラスの大きさやヘッドライトのヘゼル、後扉の開閉ブザー音が微妙に異なるものばかりで、
胴体に大層鮮やかな赤のラインが一本大きく引かれていました。

一番手前に見えた幅の狭い前方方向幕に白地に黒文字で「高 根」と漢字二文字しか書かれていないバスを見ると
年末の買い物帰りの客で著しく混雑してました。

方向幕には野田でも柏でも当たり前のようにあった系統番号がありません。
その高根とやらがどこにある土地なのか船橋市内なのか市外なのかもさっぱりわかりません。

その高根行きのバスがエンジンの大轟音を上げて眼下を走り去るときに新京成バスと書いてあるのが見えました。
「流山で見かける京成バスとも違う別の会社なんだ!」と思うと、
物見遊山でバスに乗るには余りにも遠くへ来すぎてしまったような気がしました。

以前どこかでお話したように当時の一般路線バスのナワバリは神聖不可侵で非常に強固なものがありました。
だからある土地で生まれたものはバスに乗ろうとすると特定の会社のバスしか利用できませんし
バスといえばその会社しか思い浮かばなくなります。

例えば野田市で生まれ育ったわたくしはバスといえば東武バスしか想像することができませんでした。

叔母が東武バス従業員だったのでバスの自我に目覚める前から背中に弟を背負った母に手をひかれ、
駅前にバスを見に来てツーマン車が帰庫するたびに「あ、おばちゃん乗ってた」「何言ってんの、違うでしょ」などと会話しつつ、
群青色ラインに白抜き文字で東武と書いてる大きな四角い車が『路線バス』の定義なのだと刷り込まれてしまいました。

   
当時の船橋駅頭には簡略ながら白黒の新京成バス路線図がありましたが、
東武ではないというだけで同じ千葉県であるにも関わらずいくら凝視しても小学生の柔らかい頭には入ってきません。
これが越谷や大宮でバスに乗ったときには他県の知らない地名だらけでも同じ会社というだけでスコンスコン頭に入ったものです。

神戸・芦屋が舞台なのにチラっと『東武電車』の名が出てくる谷崎潤一郎の小説「細雪」。
その中に大毎・大朝しか新聞を読んだことがない主人公が東京の新聞を読んでも記事の内容が頭に入ってこない、という描写があります。
まさにソレです。



現在のようにカラフルだったら少年時代の新京成バスの印象は変わったかもしれません。



船橋の人が野田市駅にミニストップが出来るまであった「東武バス野田営業所管内路線図」を見ても同じ心象体験をされたでしょう。


わたくしはあの日結局ひとつもバスに乗らず、奇妙な敗北感のような気持ちを抱いて野田へ帰りました。
そしてほどなく小児運賃で乗れなくなったこともあり路線バスへの意識がオタク的なものから一般利用者的なものへと変わっていきました。
魂の復活はうんと大人になって「野田から東武バスがなくなるらしい」という噂を耳にするまでありませんでした。


 



先日、船橋へ行き新京成バスに乗って往復運賃820円払って小学生以来のリベンジを果たしました。
ボディに青が使われているので違和感なく乗れましたが先ごろ廃止された赤バスだったら、さて乗れたでしょうか。


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