ここで言わせてください

過去や現在
おりまぜてます。

根無し草 ⑳

2021-08-31 09:00:00 | 根無し草
中1の夏休み、私は耳の聞こえ

ないおばあちゃんが一人で住む

団地で過ごすことになった。


そう物心ついた時に居たあの部

屋。一番古い記憶のあの生活。


10年前と違うのは、二人の叔母

は結婚して出て行き、いつも着

物を着ていた私に甘かったおっ

きばあちゃんが亡くなって神棚

になっていた。



耳の聞こえないおばあちゃん

が、この団地の5階に一人で住

むのは大変だろうと子供ながら


に心が痛んだ。


おばあちゃんは大変喜んでくれ


て、中学生になった私にお風呂


上がりのバスタオルの上にヤク

ルトをそっと置いてくれた。


普段見ないテレビを思い存分見

た。

松田聖子の

ピンクのモーツァル

チェッカーズの星屑のステージ


小泉今日子の渚のはいから人魚

懐かしい。


あの家に自分の居場所はない。

ここにずっと居たい。

そう思った。



夏休み最後の日、私は団地から

家に戻らなければならなかっ

た。


おばあちゃんもさみしそうだっ

た。


又来るねと、私は電車とバスを

乗り継ぎ家に帰った。



そこにはやはり、底意地の悪い

寄生虫達が我が物顔ではびこっ

ていた。


私は新学期に提出する通知表を

返して下さいと言った。

おばさんは知らないと言った。

子どもたちは、「通知表出さな

いと凄く怒られるよ」

「中学は厳しいから内申ひびく

なぁ」とか不安を煽ってきた。



もはや私の家ではなくなったそ

のうちのどこにも私の荷物は無

く通知表も捨てられたんだと思

った。



誰にも気付かれないように、私

は家を飛び出した。


おばあちゃんから貰っていたお

小遣いを握り締めて、今来た道

を引き返して団地に向った。



お願い、おばあちゃん鍵を閉め

ないで!

鍵を閉めてたらチャイムを鳴ら

しても聞こえない。

お願いお願い、

鍵を開けておいて!


扉は開いた。

おばあちゃんは凄く驚いて

た。


それからどのような手続きを取

ったのか全然覚えていないが、

私は再び団地の住人になった。

家からは小さな荷物がひとつ運

ばれて来た。


その中にはご丁寧に、夏休みに

借りた図書館の本が入ってい
た。

私は3ヶ月くらい、どうしよう


どうしようと本の返却に悩み続

けた。


転校先の先生が元の中学校に返

してくれた。


自分で運命を切り拓いた

そんな感じの年だった。

根無し草 ⑲

2021-08-30 06:17:05 | 根無し草
私は中学生になった。

3つの小学校が集まり、新しい

友達がたくさん出来た。

ほみみ、というあだ名のほんわ

かした雰囲気の友達ができた。

ほみみのお弁当はいつも可愛ら

しく、愛情いっぱいといった感

じだった。

初めて一緒にお弁当を食べた時

にそのお弁当を見て「かわい

い、美味しそう💞」


と心からそう言った。


それから毎日ほみみはお弁当を

見せてくれた。


席替えをしてお弁当を一緒に食

べなくなっても、遠くの席から

お弁当を見せに来てくれた。


そのたびに「ほみみのお母さん

上手だねぇ」等と私は絶賛し、

満足そうにほみみは席に戻る。


ある日、お弁当が終わる頃に


ほみみが「てのちゃん見てー」


と自分の席から叫んできた。


フルーツにホイップクリームが

のせてあるデザートが、別容器

入っていた。


「こんなに食べられないー」と

ほみみは苦笑いしていた。

私はチラッと見ただけで、それ

を無視した。


その日から私はほみみを避け

た。

普通なら、一緒に居て楽しいは

ずの友達。


何でもキャッキャ笑い合える友

達。

私は人の喜びや感動を共感出来

ない、意地の悪い人間に育っ

た。

根無し草 ⑱

2021-08-29 15:46:00 | 根無し草
小学6年の時の担任の先生は30代の既婚者男性だった。

凄く贔屓をする先生で、お兄ちゃんがいる女子児童3人を特に贔屓していた。

3人はスポーツが得意で勉強も出来、家庭環境も申し分無かった。

世の中不公平だ。

あまり好きでなかったその担任から、死ぬなよと言われた。

わけわからない。

あの頃の自分は、置かれた環境に必死で順応しようとしていた。

早く大人になって、大人の自分が、助けに来ないかなぁと考えていた。

今助けに行ってあげようか。



根無し草 ⑰

2021-08-28 09:11:03 | 根無し草
ほとんど友達と遊ぶ事がなかった小学生時代。

かつて通っていた保育所で、夏の夜夕涼み会が催された。

私は幼い弟の手をひいて、その小さな園庭に所狭しとひらかれた出店に目を輝かせた。

最初にチケットを渡されて、順番に店をまわった。

懐かしい先生の顔があった。

すっかり家庭環境が変わった私。

皆知らないだろうなぁ。

いや、狭い街だから噂になってるかなぁ。

ごった返した保育所の中で、たくさんの大人がいたから、安心していた。

弟に好きな所まわって良いよと一人で行かせた。

時折弟の居場所を目で確認していた。

そこにいるはずの弟が居ない。

心臓が止まりそうだった。

急いで大人たちに伝え、一斉に探してもらった。

保育所の出入口は一応チェックされていたが、誰も一人で出て行く幼い弟の事を見ていなかった。

保育所から家までの1キロの道程を、弟は一人で暗い中歩いて帰っていた。

私はホッとした。

覚えていないが父親からは殴られたのではないか。

やはり私は当たり前に楽しむ事とは縁が無い。

そんな事をふと思い出した。