社会の鑑

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裁判員制度と防御権

2009-02-18 08:53:02 | ノンジャンル
 昨日、民主党の『裁判員制度実施に向けた環境整備等の検証プロジェクトチーム』の会合に出席し、「裁判員制度が刑事裁判に与える影響」について、意見の陳述を行った。
 与えられたテーマは、「裁判員制度が被告人の防御権など裁判の公正さに及ぼすと考えられる影響」についてである。
 そこで、次のようなレジュメを用意し、それに従って意見の陳述を行った。文章化はされていないけれども、話の要旨は理解可能であろう。

1) 裁判員制度で考えられている法廷像
・ 裁判員が理解可能な訴訟→ 争点整理
                証拠のヴィジュアル化
                 被害者の訴訟参加との関連性

・ 従来型法廷像
  弾劾主義訴訟
   公訴を提起し、事実を証拠により証明する検察官。
   被告人の利益を保護し、検察官のそれらの主張の矛盾を追及する弁護人。
   自由心証主義の下で、両者の主張に耳を傾け、是非を判断する裁判官。
   ⇒したがって、裁判官には、どちらの立場にも立たず、客観的立場で法廷に臨ま    なければならない。そこでは、予断排除の原則が必要となる。

2) 防御権への影響
・ 防御権への侵害可能性
  争点整理と防御権
   開示される証拠は、検察官が立証予定の証拠のみである。全証拠ではない。
   弁護人は、開示された証拠の検討に基づく反論=主張の作成。
   事実を証拠に基づいて検証することが出来ない裁判員は、どのようにして事実を  組み立てるのであろうか。広島高裁の提起した問題と最高裁の上告受理(2月14日付朝日新聞参照)。

   主張の矛盾は、証拠の個別的検討を行う証拠調べで明らかになる。
   それは、証拠書類や証拠物だけしか見ない争点整理では、明らかにならない。
   また、証拠間相互の矛盾についても、他の証拠の開示がなければ明らかにならな  い。

   しかし、整理された争点については、もはや争うことは出来ない。
   たとえ、公判で証人の証言に矛盾が生じ、新たな争点が生まれたとしても、同様  でなる。

   これらの弊害の除去のためには、全証拠開示が絶対的に必要。

・ 争点整理による無罪推定原則の崩壊
   検察官の主張とそれを立証するための証拠リストを閲覧し、それに対する弁護人  の反論に耳を傾けることにより、裁判官は、仮定的事実を構成することになるおそ  れがある。もしそうだとすれば、それは、無罪推定原則の否定である。

・ 争点整理に伴う裁判官の予断の形成と裁判員への引継ぎ
   裁判長による争点整理の結果の説明
   争点整理で獲得した裁判長に心証が、裁判員へと引き継がれるおそれが大きい。

・ ヴィジュアル化と防御権
   試行としての法廷内でのヴィジュアル化→ 被害者への悪影響
                        裁判員への影響は大きい。
   ヴィジュアル化は、何のために必要なのか。
    傍聴者のためではない。裁判員の理解を促進するためである。
   裁判員のためだとすれば、PCで上映すればよし。
   法廷傍聴者は、従来型法廷と同様である。→ 証拠そのものを見ることはできな  い。
   法廷内でのヴィジュアル化は、傍聴者の共感を呼び、その意識が裁判員に反映さ  れ、報復的応報的裁判になるおそれが大きい。