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演出ノート その6

2011年02月18日 20時13分34秒 | Weblog
6、装置・衣装・照明・音楽で表現したかったもの

 子どもたちの演技の助けになるように、大道具や小道具は、
なるべく具体的にしようということになったが、たいへんだった。

前提として1900年初頭をイメージしたものであるということ。
人形、パン屋のカウンター、暖炉、誕生日のテーブル、教室の
椅子や机、屋根裏部屋のベッド、最後はねずみまで・・・
「どうすんの?」

 人手がなく、小川君はじめ、スタッフみんなとっても大変
だったと思う。大雪のせいもあったと思う。雪を処理しながら、
生活を維持するだけでも一苦労だったのだから。

 暖炉の上の壁に絵がほしいと思っていたが、そこまで要求する
気にはなれずにいたら、小川君が「ここに絵があるといいです
よね。」と言う。本番前日のことだったので、もごもご返事を
すると、「じゃあ、仕方がないから作りましょう。」えー、
今から?!と思ったけど、やっちゃうからすごい。セアラ、ミンチン
それぞれの部屋にふさわしいと思えるものを選び、場面転換も
しやすいように工夫。ぬくもりの感じられる部屋になった。
本番直前まで、舞台で改良できることを探すってすごい。
 
 道具は、それを使って生活している人の人間性がにじみ出る
から気をつけて配置しなければならない。登場人物にふさわしい
かどうか。色やデザインが舞台に合っているかどうか。照明が
あたると、雰囲気がまたちがうので、照明を当てて客席から
全体のバランスを見て、舞台が壊れてないかチェックする。

 衣装にも人間性が表れる。みゆきさんが、ネットで、
その時代らしい、おしゃれで値段も手ごろな衣装を見つけて
くれた。衣装は、登場人物の役割や性格を語るので、色の持つ
イメージを大事にする。たとえば、セアラは知性と清純を表す青、
ジェシーは中立を表す緑など・・・実際は、その通りのものは
見つけられなかったので、それに近いイメージのものを身に
つけることになったが。
さすが、女の子たち。衣装を見て大喜びだった。やる気もアップ。
 

 照明と音楽は、心理的な側面を補足・表現する手段となっている。
特に今回の場合は、子どもたちの演技が難しかったので、照明と
音楽の力を十分借りることにした。

 たとえば、セアラの誕生日のシーンから、ミンチン先生の
部屋への幕間の音楽。ここでは、当初スタッフから、「父親が
死んだのだから、セアラが泣く場面があったほうが分かりやすい
のではないか。」という意見があった。でも、あえて作らない。
理由は、「世界中のだれよりもパパを愛しているわ。」と言う
セアラが、激しく嘆き悲しむのは当然だから。その代わり、
セアラの慟哭を表す葬送の音楽をボリューム大で入れた。
セアラが喪服に着替える時間を確保するためにも必要だった。
喪服を着たセアラのシーンは、孤独と悲しみを表す青い照明。
当然だけど。

 音楽は、演技の邪魔になるようではだめ。いつの間にか、
気づいたら・・・程度がちょうどいい。でも、幕間は、登場人物の
心情や状況を思い切り音楽で表現して、補足説明的に使った。

冒頭、セアラの長い旅と新しい生活への期待が感じられる音楽。
きらめくダイヤモンド鉱山の音楽。大人の前では令嬢らしく
ふるまうジェシーとラビニアの放課後の教室は秘密めいた音楽。
セアラを叱責する召使たちの声のバックには、時間が過ぎていく
ことの凄惨さを感じさせる音楽・・・というように。

 最後の場面では、二人は何も語らなくてもお互いを理解し
合っている。「理解し合っている音楽を頼む。それから希望も
感じてもらいたい。」と注文をつけて海藤を困らせた。

 海藤は、当時作曲された交響楽などをいくつも準備したが、
結局一つしか使えなかった。こんな調子で、公演の度にソース
が増えていく。