🎨 田舎の画家の呟き 🎨

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鼓動は遠のき身体は崩れてゆく。

2022-11-21 15:20:12 | 山が好き

                           タイトル「晩秋の白馬三山」 610 × 318 cm F6号

久々にのんびりと白馬三山への山旅です。

 

上野の森美術館へ出品するための100号のカンバスへ食らいつきやれこれ1ヶ月

作品の持ち込み審査日まで残すこと1週間、バイトを終えてから午前3時までの毎夜余念なく絵の最終仕上げに筆を走らす。

傍らの小さなテーブルには牛乳パックとコッペパンが無造作に置かれそれを、思い出したように飲み頬張る。

50年も前の私の生活の一部です。

 

白馬三山縦走、いつもの岳友Cと久々の登山だ。

猿倉から白馬大雪渓を登り荵平で一服とる。

このような書き進めでは何の変哲もない山日記を書いているようなものである。

このブログファンの方々の為に決して期待は裏切らない。

 

荵平までやっとのことで辿り着いた私は既にへばっていたのです。

「C 俺は動けん。 ここで少し休むから先に行ってくれ」と喉を絞るように云い伝えた。

「じゃぁ ゆっくり登ってゆくよ」と言い残しCは心配顔で応え登ってゆく。

歩こうとするが身体が言う事を聞かない鉛と化した身体は俺を横たわる岩の一部に変えようと企てる。

減なりとした眼で恨めしくどこを見るでもなく眺める俺を楽しそうに登山を楽しむ人々の憐れむような蔑むような

眼が恥ずかしく身に突き刺さる。

 

公募展へ間に合わすため昼はバイト夜は絵の制作で10日間は殆ど睡眠を取っていない付けがこの白馬大雪渓

荵平で清算しなければならないのかとどうにもならない気持ちが空を掴むが掴むものなど何もない。

 

時計を見る12時を少し過ぎていたので1時間半ほど登山道脇で寝てしまったようだ。

寝たせいで身体もいくらか軽く感じる他の登山客の姿も少なくなった登山道をエッコらと歩みの進める。

 

ようやく稜線へと辿り着き村営小屋へザックを下すと、すかさずCが笑顔をほころばせながら肩を叩き迎えてくれた。

「何か飲むか」とぶっきらぼうに聞く。

「おぉ!缶ビール、缶ビール」と俺は甘える。

良く冷えたビールを受け取るとプルトップを摘み一気に開ける、口に運ぶ琥珀の液体は喉の渇きを潤わせながら体内へと

流れてゆく。

「うまい・・・」

えっ!なんだ、心臓の音がドックン、ドックンと正常時より大きく波立って耳元で鳴っている。

そして俺の鼓動の音が徐々に小さく心拍はゆっくりと消えそうに感じ周りは明かりを絞るように

暗くなってゆく。

「 M大丈夫か! どうしたんだ M」とCの声は脳を揺さぶるようにハッキリと聞こえる。

俺の周りを取り囲む他の人達の心配そうな声も多重に聞こえる。

そして遂に鼓動は停止して世界は闇となり俺は崩れ行く。

そんな中でも俺自身は躊躇することもなく冷静でいられる不思議な空間に身を投じているのだった。

そして奈落の底へ辿り着く。

 

何か温かさを感じてきた。

そうか血液が動き出したんだな、はっ、聞こえる俺の鼓動だ、心臓が動き出したんだな。

俺の世界に明かりが戻ってくる。幸福感が生じる、生命が負けずに頑張ってくれた。

 

 

白馬三山は様々なルートを単独行や多数のパーティーで歩いたが一番の危険を伴った山行を書いてみました。

じゃぁ また。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


山では何かがおこる。#1

2022-06-26 21:42:06 | 山が好き

                          雨あがる里  333 × 242  F4号

 

前回谷川岳での体験を描きましたが思いのほか評判が良かったので今回は便乗してその第二回目です。

長きにわたって山登りをしていると思わぬ体験やミステリアスな現象を好むと好まざるに関わらず体験をします。

それに私、意外と霊感があるんです。でも怖いです。

ハッと胸の中へぶつかるような冷たい空気を感じたり、周りが徐々に冷たく重い空気に変わったり、いきなり全身が重苦しい環境の中へ放り込まれたり、国道を運転していると分離帯にこの世の物でない男が立っていたり、水辺で記念写真を撮り現像を終えた写真を覗くと水面には正に鬼畜の男の顔が水辺から皆を睨んでるとても恐ろしい写真を撮ってしまったりいろいろな体験をしてます。

 

              ☆ ☆ ☆ ☆   ☆ ☆ ☆ ☆

 

今から40数年前の友人と二人で雪山山行(2月)にと甲斐駒ヶ岳の登山です。 (南アルプス赤石山脈北端標高2967m)

雪積る戸台川を、ほぼ一日がかりで歩き今夜宿泊予定の仙水小屋に到着、仙水小屋のやぶさんに(矢吹氏)久々に会える楽しみも

吹っ飛んでしまった。無人の小屋は静まり返り我ら二人を向かい入れてはくれなかった。

その夜は仙水小屋テントサイトにテントを張り遅めの食事をとりアルコールの酔いも手伝い我らは寝袋へ潜り込み寝に着いた。

 

誰かが我らのテントへと向かってくる。

アイゼンを装着した足音はどんどんと近づいてくる。

ライトをつけ時計を見る真夜中の2時だ。

誰がこの時間に雪を掻き分け歩くだろうか。

あぁぁ とうとテントのすぐ側でその歩みは止まった。

声を掛けてくるだろうか? 小屋には入れないからテントへ泊めてくれと言うだろうか。

だが足音は無言だ。

疲れのせいで夢を現実と感じたのだろうと思い直して横の友を見ると苦笑いをして深く寝袋を顔に被せ寝に着いた。

私も友と同じように再び寝の世界へと移る。

 

深い眠りへの誘いに身を任せていると、テントの周りを誰かが歩く足音に気付く。

あの足音だった。

テントの周りをギッユ ギッユとアイゼンを装着した足音は恐怖と共に回り続ける。

永遠に続くのか、気の遠くなる一夜は恐怖が支配する闇の世界。

だが、我らは何時しか眠りについたのだろう夜は開け東の空は今日の快晴を約束するほどに輝いている。

 

友も昨夜の出来事に気付きながらその事に関しては何も語らない。

「まいったなぁ 昨夜は」と顔しかめ溜息を吐いた。

 

 

              ☆ ☆ ☆ ☆   ☆ ☆ ☆ ☆

 

その年の某大学の山岳部が甲斐駒の頂上手前で滑落し一名がまだ行方不明とのことだと下山した

後に山岳雑誌の記事で目にした。

あれはキッと彼だったのだろう。

早く家に帰りお雑煮を食べたかったのかもしれない。

 

こうやって書いていると鮮明に当時の状況が思い出される。

小屋のやぶさんは彼の結婚式の為に故郷新潟へ帰省していました。

 

ではまた。