今更説明するまでもなさそうだが、念のため説明しておこう。
「おそ松さん」は、2015年に赤塚不二夫生誕80周年記念作品として始まった「おそ松くん」を原作としたTVアニメである。
2017年には第2期が、2020年には3期がそれぞれ放送され、2019年には映画化もされた。
おそ松さんはおそ松くんを原作としつつも、「大人になった」という設定で新たに展開されるリブート作品であり、オリジナルストーリーを主体としている。しかし、原作であるおそ松くんに存在する話をベースにした話、所謂"原作回"もいくつかあるのだ。3期の終わったこのタイミングで、歴代の原作回を原作や過去のアニメとも比較しつつ振り返ってみたい。
既にご存じの方にはおさらいに、ご存じでない方にはさらに深く知ってあわよくば原作を手に取るきっかけにもなってくれれば幸いである。
紹介する原作回は以下の通り。
①エスパーニャンコ
②チビ太の花のいのち
③復讐のチビ太
④となりのかわい子ちゃん
⑤イヤミはひとり風の中
⑥ナンマイダー来襲
⑦柿
①第1期第5話「エスパーニャンコ」
原作:「エスパーニャンコをねらえ」
(週刊少年サンデー1965年3月21日13号、竹書房文庫第9巻、ebookjapan第11巻)
デカパン博士によって人間の本当の気持ちがわかるようになった「エスパーニャンコ」と、一松の友情を描いた一編。
(Aパート「カラ松事変」から繋がるオチはあるといえ)おそ松さんの中では感動回のひとつとして認知されていると言っていいだろう。
エスパーニャンコ自身は本格的な出番はこの回に限られるが、一松の相棒的存在として本編外では様々なところで登場しておりグッズも多数あるなど、おそ松さんの中でもマスコット的存在として高い人気を誇っていることは周知の通りだ。
原作「エスパーニャンコをねらえ」は、人に騙されてばかりのデカパン博士が騙されないように飼い猫をエスパーニャンコにする、という内容でエスパーニャンコの面白さに重点が置かれており、物語的に起承転結はほぼない。
おそ松さんでは、エスパーニャンコの造形は原作の扉ページに描かれているものを忠実に再現している(ただ漫画内ではコマによって直立していたりジト目ではなかったりする)ほかデカパン博士によって能力を得た点も共通しているが、それ以外はほぼ別物で、エスパーニャンコのキャラクターのみ原作から引用されたといえる(初放送当時の僕も「原作回」という認識はほぼなかった)。
しかし原作の後半にある松造と松代を介したやりとりがちょっとほっこりするものとなっており、後半に感動的な展開があるという点も踏襲しているといえるかもしれない。また、原作でおそ松たちの先生として登場したキャラが、おそ松さんにもとある学校の先生としてチラッと登場している。
アニメ「おそ松くん」(第1作)では第32回Aパートで「ほんとのことをいうな」が該当。設定や基本的な流れは概ね原作通りだが、主に後半が大幅に異なる展開になっている。
②第1期第15話「チビ太の花のいのち」
原作:「チビ太の花のいのち」
(週刊少年サンデー1966年12月11日49号、竹書房文庫第15巻、ebookjapan第19巻)
スランプに陥ったチビ太の前に花の精が現れ、楽しい時を過ごすが、花のいのちは短くてすぐに消えてしまうという、どこか切ないお話。
原作「チビ太の花のいのち」は、いつもイヤミに邪魔され満足に食べ物も得られないみじめな生活を送るチビ太が花の精に出会うという話。
おそ松さんのデフォルト設定に合わせられてはいるが、悩みを抱えるチビ太が花の精と出会い、一時の幸せを得るがやがて花が枯れて消えてしまうという流れは原作と共通しており、チビ太の裏でもう1人(原作ではイヤミ、おそ松さんではカラ松)のもとに対照的な花の精が現れるというのも同じ。エスパーニャンコほどは別物になっておらず、まさにおそ松さん版「チビ太の花のいのち」に仕上がっている。
チビ太側の花の精のデザインは原作を踏襲しつつも現代風にリファインされており完成度が高い。
アニメ「おそ松くん」(第2作)では第31話「花の精にはこりごりザンス!」がこれにあたる。大筋は原作のままだが、時代設定が江戸時代に変更されているほか、チビ太と花の精の仲睦まじさが強調されているなどの違いがある。
③第2期第11話「復讐のチビ太」
原作:「チビ太の復讐」
(月刊別冊少年サンデー1965年11月号、竹書房文庫第12巻、ebookjapan第13巻)
※この回はほかとは違い「オマージュ色の強いオリジナル回」とも解釈可能(ピクシブ百科事典でも原作回の扱いになっていない)なのでピックアップするか否か迷ったが、共通項が多いこと、松原秀氏のインタビューにて具体的に言われてこそいないが原作の話をベースにしていることが明言されていたこと、さらにTwitterで僕が行ったアンケートの結果でも原作回であるとの見解が多かったことから、ここでは原作回に含めることにした。
ツケを払わない上に頭の最後の1本を抜かれたことで6つ子に大きな恨みを募らせたチビ太が、徹底的な復讐を行うエピソード。
原作はおそらく「チビ太の復讐」で、こちらはイヤミにおでんの盗み食いの濡れ衣を着せられた上に六つ子によってドカンに閉じ込められたチビ太が、イヤミと六つ子に執拗に復讐をするという話。
六つ子が怯えるほどにチビ太が本気の復讐をしている点はよく似ており、またフスマに書かれた「くやしい」「六つ子おぼえてろ」などの落書きは原作にもドカンの中の落書きとしてほぼそのままある。
アニメ「おそ松くん」(第2作)では第25話「おでんの恨みは怖いザンス!」として登場。導入はほぼ原作通りだが、復讐の過程はオリジナル色が強い。また、おそ松さんにもあった六つ子が髪を剃られる展開はこちらに近い。
余談だが、この「チビ太の復讐」は僕が小学生時代にわけあって人生で初めて本格的に読んだ赤塚漫画であり、僕がここまで赤塚ファンになるのに一役買っているといっても過言ではない一編である。その話がおそ松さんでも登場していると考えると、感慨深いものがある。
④第2期第16話「となりのかわい子ちゃん」
原作:「となりのかわい子ちゃん」
(週刊少年サンデー1965年6月27日27号、竹書房文庫第10巻、ebookjapan第12巻)
隣の家にやってきたかわい子ちゃん・犬山キン子と仲良くなった6つ子、それが非常に気になるトト子の間で起こる一悶着(?)。
原作は「となりのかわい子ちゃん」。六つ子・トト子・犬山キン子の構図自体は似通っているものの、ストーリー的にはほぼ別物。犬山キン子も名前こそ同じだが、原作ではカチューシャをつけた清楚系の女の子であるのに対し、おそ松さんでは色黒でボーイッシュになっている。また原作では犬そっくりなキン子のお父さんも重要なポジションながらおそ松さんには登場しなかったが、ゲーム「へそくりウォーズ」によると犬似のお父さんがいる設定自体は存在する模様。
アニメ「おそ松くん」では第1作・第2作ともに該当話が存在。第1作第12回Aパート「ひっこしてきたカワイコちゃん」はほぼ原作に忠実だが、第2作第32話「トト子はアイドルNo.1ザンス」は女の子の名前が"クミコ"になっているなど、オリジナル色が強い。
これもまた個人的な余談になるが、「となりのかわい子ちゃん」の掲載された少年サンデーは、我が家にある。
⑤第2期第18話「イヤミはひとり風の中」
原作:「イヤミはひとり風のなか」
(週刊少年サンデー1967年10月8日41号、竹書房文庫第18巻、ebookjapan第22巻)
昭和の時代、ハラペコ町に住むろくでなしの男・イヤミ。ある日、菊という目の見えない少女に出会い、彼は変わっていく。
原作は「イヤミはひとり風のなか」。江戸時代、ハラペコ長屋に住む怠け者の侍イヤミと、目の見えない少女お菊の物語。おそ松くんの中でも屈指の名作と名高い有名エピソードである。重要なエピソードなだけに、予告があった時点で驚きや期待でファンが賑わっていたように記憶しているし、自分も非常に気になっていた。結果としては、おそ松さんでも期待を裏切らない内容になっていたと言えるだろう。
原作では江戸時代だったが、おそ松さんでは昭和、1950年代頃に変更されているほか(これにより、翻案元である映画「街の灯」の方にも近くなったとも解釈できる)、キャラデザや一部配役の変更など挙げていけば相違点は多いものの、基本は原作に忠実な展開をしており、紛れもなくおそ松くんのアニメ化、リメイク版と言って差し支えない仕上がりだ。それでいてお菊ちゃんの境遇や町の人たちの優しさなど、新たに追加された奥深さもある。
その上、全体の構成や演出などからもこの回はスタッフの本気が感じ取れる。僕個人としても、ここまでのものを作ってくれたことは本当に評価に値すると思っているし、おそ松さんで一番好きな話はこれだと言って間違いない。
アニメ「おそ松くん」(第2作)ではテレビ放送される予定だったものがお蔵入りとなり、1990年になってOVAとして「イヤミはひとり風の中」が発売されている。世界観設定やビジュアル、ラストシーンはこちらが原作を忠実に再現しているが、実は細かい描写はおそ松さんの方が原作に近かったりする。どちらもそれぞれにアレンジが秀逸なので、見比べてみるのも面白いかもしれない。
⑥第3期第16話「ナンマイダー来襲」
原作:「またまたインベーダー来襲」
(週刊少年サンデー1968年5月12日20号、竹書房文庫第20巻、ebookjapan第24巻)
ナンマイダー率いる宇宙人の一味が、6つ子含む地球人たちに姿を変えて紛れ込んでいた。それを知ったイヤミと松造は…。
原作は「またまたインベーダー来襲」。ナンマイダー一味のジンベーダー・ゴンベーダーがおそ松とチョロ松そっくりの姿になって松野家に潜入するという内容だ。「ナンマイダー来襲」ではこれに加えて、アメリカ映画「ゼイリブ」が元ネタとして大きく取り上げられているようだ。原作回でありつつ全く別の作品が同時にメインモチーフとなっているのはこれが唯一。そのためもあってストーリー自体は大幅に異なるものの、ナンマイダー一味のメンバーやその紹介時の台詞は原作そのまんまであり、宇宙人が地球人そっくりになってなりかわる展開やその複製方法まで同じである。またラストシーンではチョロ松がポストに扮しているように見えるが、これは原作で偽おそ松・チョロ松がポストに入っていたのが元になっているようだ。
アニメ「おそ松くん」第2作にて第14話「エイリアンをやっつけろ!」としてほぼ忠実にアニメ化されており、さらにナンマイダー一味はこの回以降も何度か登場している。
また余談だが、WEBラジオ「シェーWAVE おそ松ステーション」にてこの回の感想を送ったところ、なんと採用されてラジオ内で僕のお便りが読まれているので、ご興味あれば聴いてみてください。
⑦第3期第20話「柿」
原作:「最後のカキ一つだじょー」
(週刊少年キング1972年12月18日53号、ebookjapan第28巻)
とある病院で病に伏すハタ坊。窓からは柿の木が見えていて…。
原作は「最後のカキ一つだじょー」。なんと過去にアニメ化歴がなくこれが正真正銘の初アニメ化である。しかも、強いて挙げるような大胆な改変もなくかなり原作に忠実にアニメ化されている。
それに加えて週刊少年キング時代のおそ松くんはこの回も含めてその殆どが竹書房文庫の単行本には収録されていないなどややマイナーな存在である。
「初アニメ化」「かなり原作に忠実」「マイナーなキング版」と三拍子揃っており、僕としてはかなり意外性があった。
さて、おそ松さんの原作回について一通りまとめてみたが、いかがだっただろうか。このほかにも、小ネタレベルの原作要素や、制作側が意図したかは不明だが原作と似ているポイントなどもカウントすればまだまだあるのだが、機会があればまた紹介してみたい。
「おそ松さん」に対しては、はっきり言って赤塚ファンとして意見したいことも少なからずあるのだが、こんな風に毎期必ず(しかも複数)原作回をやってくれることは純粋にとても嬉しい上、制作側の誠実な姿勢をも感じられて、「おそ松さん」を基本的には支持している状態が揺るがない要因のひとつにもなっている。
今後もさらにTVシリーズに続きがあるかは現状ではわからないが、もしあったら今度はどの話が選ばれるかな〜などと考えるとまたワクワクするのだ。
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