○ 2023年5月1日、スマートフォン決済の「PayPay」がクレジットカードの新規登録および利用を停止するなどいくつかの変更を発表し波紋を呼んでいる。
だがクレジットカードに関する制限やポイント付与の縮小などは、ここ最近他のスマートフォン決済でも見られる。お得さを武器に利用者を増やしてきたQRコードベースのスマートフォン決済が曲がり角に差しかかっている様子が見えてくる。
クレジットカードの利用停止などで批判が噴出。
ゴールデンウイークに入った2023年5月1日、PayPayが提供するスマートフォン決済の「PayPay」がSNSを大きくにぎわせることとなった。その理由は同社が発表したサービス内容の変更にある。
1つは2023年8月1日以降、クレジットカードを利用した決済が使えなくなるというもの。PayPayは事前に料金をチャージして決済する方法だけでなく、登録したクレジットカードを使い、ある意味クレジットカードのスマートフォン決済インターフェースとして使うことも可能だった。だが2023年7月初旬にクレジットカードの新規登録を停止し、8月以降は登録自体が解除され、この使い方が利用できなくなる。
一方、PayPayの子会社が提供する「PayPayカード」「PayPayカード ゴールド」は、7月初旬までに登録済みの場合継続利用が可能であるほか、それ以降も利用した金額を翌月にまとめて支払う「PayPayあと払い」に登録すれば利用できるという。グループのサービスは優遇する方針のようだ。
そしてもう1つは、同じく2023年8月1日より、「ソフトバンク・ワイモバイルまとめて支払い」でPayPayに残高をチャージする際、今まで不要だった手数料がかかるようになるというもの。
これはソフトバンクやワイモバイルの通信料金と合算で支払う、いわゆる「キャリア決済」と呼ばれるものだ。8月以降は毎月初回のチャージに手数料はかからないものの、2回目以降は2.5%の手数料がかかるようになる。
これら一連の措置は、率直にいってしまえば利用者にはデメリットしかない。それだけに一連の発表以降、SNSでは「PayPay改悪」との声が相次ぎ大きな注目を集めることとなった。
親会社の成長のため規模拡大から利益重視へ。
今回変更されたサービスは、いずれも決済時に手数料を支払う必要がある。このため一連の措置は、PayPayが手数料の支出を抑える狙いが大きいだろう。
クレジットカードでの決済はキャンペーンなどを含めポイント還元の対象外となることが多かったし、ソフトバンク・ワイモバイルまとめて支払いも対象が各サービスの利用者に限られることから、いずれもPayPay利用者全体に占める割合は小さいと考えられる。
そうしたことからPayPayは、一連の変更を打ち出しても利用者に大きな影響は出ないとみていたかもしれない。これだけネガティブな反応が起きたことはPayPayとして想定外だっただろうが、少なくとも記事執筆時点(2023年5月3日)では何らかの緩和策が打ち出される様子はない。
利用者から反発を受けてもなお、手数料を削減し利益重視へとかじを切っている理由は、PayPayの業績を黒字化するためだろう。PayPayはこれまで顧客や加盟店の拡大のための投資で赤字が続いていたが、最近その赤字を抑制する動きが強まっている。
PayPayは2022年度時点で連結決済取扱高が10兆円を超えており、登録利用者も2023年4月時点で5700万人を突破。加盟店数も登録箇所数が累計で410万超に達するなど、QRコードベースのスマートフォン決済サービスでは頭一つ抜きんでた存在となっている。規模の面で他社に優位性を獲得したこともあって、投資から回収へとかじを切りつつあるのではないだろうか。
それだけにグループ全体での成長を実現するべく、PayPayが黒字化を急ぐ必要に迫られたといえそうだ。
他のスマートフォン決済サービスでも進む「改悪」。
ただスマートフォン決済サービスの動向を見るに、クレジットカードなどの手数料がかかるサービス利用時の「改悪」が進んでいるのはPayPayだけではない。
同じソフトバンクのグループ内のサービスでいえば、LINEの「LINE Pay」も2023年に「Visa LINE Payクレジットカード」での利用特典を変更。LINE Payにこのカードを登録して残高をチャージせずに支払う「チャージ&ペイ」利用時のポイント還元特典を、2023年4月に終了している。
他社の最近の事例では、KDDIの「au PAY」もクレジットカードに関連した変更を行っている。具体的には、「au PAYカード」を使って残高をチャージした際に従来は100円ごとに1ポイント還元されていたのが、2022年12月より還元の対象外となり、「au PAYゴールドカード」でチャージしたときの特典も縮小されている。
これについてもソフトバンクやZホールディングスと同様に、グループ会社の業績不調が影響しているといえよう。PayPayだけでなく他のスマートフォン決済も、基本的には携帯電話会社やその傘下の企業が提供、あるいは携帯電話会社と提携している。このため携帯電話会社とそのグループがスマートフォン決済の中心となっていることは間違いない。
そして携帯4社のうち、楽天モバイルは先行投資による大幅な赤字に苦しんでいるし、NTTドコモやKDDIもソフトバンクと同様政府主導の料金引き下げに加え、最近では電気代高騰が業績に大きな影響を与えるようになっている。
それ故各社とも利益重視の守りの戦略を重視するようになり、スマートフォン決済にもその影響が及んだ結果、利用者からして見れば「改悪」につながる変更が相次いでいるのではないだろうか。
それでも以前は、利用者を囲い込むため自社系列のサービス利用時はお得さを維持することに重点を置いてきた。だがau PAYやLINE Payの事例を見るに、系列のサービスを利用してもお得にならないケースが増えているのは気になる。
それだけ各社の経営状況が厳しいのだろうが、このことは複数サービスの利用によるお得さで利用者を囲い込む、いわゆる「経済圏ビジネス」を根幹から揺るがすことにもつながってくる。
確かにスマートフォン決済は、短い期間でお得なキャンペーンを連発したことで消費者に定着したが、電子マネーやクレジットカードのタッチ決済などと比べた場合、利用するのに手間がかかり不便な部分が多い決済手段でもある。
それだけにお得さを大きく打ち出せなくなった今後も、他の決済手段と比べ優位性を保てるのかは気がかりなところだ。