〇 LINEヤフーやNTTドコモが本腰、流通向け「オフライン」デジタルマーケティング。
3社合併により誕生したLINEヤフーが、オフラインのデジタルマーケティングに力を注いでいる。同様の動きは携帯各社にも広がっている。特にNTTドコモはここ最近、自社のデータを生かしたマーケティング関連ソリューションを強化している。なぜ各社は流通小売業のデジタルマーケティングに力を入れているのだろうか。
ポリシー変更で動き出す「LYP」のマーケティング。
ここ最近、IT業界では大きな動きが続いている。その1つが「LINEヤフー」の誕生だ。LINEヤフーはLINEとヤフー、両者の親会社だったZホールディングスが合併して2023年10月に生まれた。
これら3社は既に経営統合していたものの、親会社のソフトバンクと韓国NAVERがZホールディングスの株式を50%ずつ保有する対等な関係だったこともあり、事業の整理統合が進まず、経営統合がむしろ各社の事業にマイナスに働いていた。
そこで事業の整理や統合のスピードアップを図るべく合併に至ったわけだ。それにより注目されているのが「LYP」である。LYPはLINE、Yahoo! JAPAN、PayPayの頭文字。合併によりこれら3つのサービスをより密に連係させ、事業のポテンシャルを最大化する取り組みを進めようとしている。
その動きを明確にしたのがプライバシーポリシーの変更だ。経営統合以降、LINEのアプリ上で新しいプライバシーポリシーの案内がポップアップ表示され、同意が求められるようになった。
新しいプライバシーポリシーは、LINEとヤフーのプライバシーポリシーを統合したものだ。双方が持つユーザーの識別子をひも付けて商品購入履歴などの情報を利用し、双方が提供するサービス上で最適な広告を配信するとしている。
このプライバシーポリシー変更によって、LINEの「LINEアカウント」とヤフーの「Yahoo! Japan ID」を連係できるようになった。現段階ではアカウント統合までには至っていないものの、この動きは将来的なアカウント統合を見据えたものだろう。
LINE、Yahoo! Japan、そしてPayPayといった主要サービスでユーザー情報を一本化することにより、それぞれの行動・購買データを活用した広告やマーケティング関連の施策を進めやすくなったといえる。
位置情報と決済データが強み。
またPayPayのおかげで、今後はオンラインだけでなくオフラインでの決済データも得られるようになる。これによりLINEヤフーはその事業領域をオンラインだけでなく、デジタル化が難しいとされてきたオフラインでのマーケティングにも拡大しようとしている。実際、2023年3月に当時のLINEとヤフー及びPayPayは、オンラインとオフラインを横断した販売促進プラットフォーム「LYPマイレージ」の提供を開始した。
LINEヤフーの親会社の1つは、携帯電話会社のソフトバンクである。そのソフトバンクは、スマートフォンアプリを使って行動データを取得し、それを分析してマーケティングなどに活用しているAgoopを子会社に持つ。つまりLINEヤフーは、オフラインでのさらなる行動データを取得して活用しやすい立場にあるといえる。
流通小売業では従来、顧客の行動を追うのが非常に難しかったことからマーケティングのデジタル化がなかなか進められずにいた。だが携帯電話会社とそのグループ企業が、モバイル通信とスマホ関連サービスに加え決済を事業に持つようになったことで、それらのデータを活用したデジタル・マーケティング・ソリューションを提供しやすくなった。
企業のデジタル化を軸とした法人事業は、政府主導の携帯電話料金引き下げに悩む携帯各社にとって大きな成長が見込める。このため各社はこの分野に非常に力を注いでいる。
それだけに流通小売業などに向けたデジタル・マーケティング・ソリューションは、携帯電話会社やそのグループにとって重要な存在になりつつあり、各社ともに事業の拡大を進めつつある。
例えばKDDIは、データエンジニアリングのスタートアップであるフライウィールを2023年3月27日に連結子会社化した。フライウィールのデータ活用プラットフォーム「Conata」を用いて、企業のデータとKDDIが持つスマホの位置情報データなどを連係させた、マーケティングなどのソリューション構築を進めようとしているようだ。
「1つのID」を軸に行動データを分析。
だが、よりデジタルマーケティングに力を注いでいるのはNTTドコモだろう。同社は2023年10月25日、「ドコモリテールDXプログラム」を発表した。これはNTTドコモのサービス利用者のデータを分析して統計化することで、集客や仕入れなどを最適化する流通小売業向けのソリューションである。
NTTドコモはポイントプログラムの「dポイント」を展開しており、その基盤となる「dポイントクラブ」は9600万超の会員を抱えている。それに加えてNTTドコモは携帯電話サービスを提供しているので、その位置情報データを活用できる。さらにdポイントやスマホ決済「d払い」加盟店の購買情報など、オフラインの行動データを多く保有している。
そこでそれらのデータを顧客の同意を得た上で収集し、同社のAIエンジン「docomo Sense」を活用して分析。「リテールDXダッシュボード」を用いることで商圏や顧客の様々な情報を可視化する。集客や販売促進、新規出店などに役立てられるほか、企業が持つID-POSデータとNTTドコモのデータを連係することで、より細かな分析が可能になるという。
NTTドコモは2023年9月26日、流通小売事業者のデジタル化を支援するフェズと業務提携。さらに2023年10月23日には、マーケティング支援事業を展開するインテージを子会社化した。今後はフェズやインテージが持つ知見やデータ及び分析力を生かし、流通小売事業者の課題を解決するデジタル化をトータルで支援するサービスなども展開していくという。
NTTドコモ スマートライフカンパニーマーケティングイノベーション部の石橋英城部長は、携帯電話からポイント、決済に至るまで全て1つのIDで管理していることをNTTドコモの強みとして挙げる。1つのIDで管理しているために、多数の顧客の行動データを一気通貫で追跡して分析できると話す。
加えて石橋部長は「それぞれのサービスでIDやプライバシーポリシーが異なるため、それらをひも付けたプランニングや分析ができない企業が多い」とも話している。前述のように、LINEヤフーは重い腰を上げて対応を始めた。一方、NTTドコモのサービスはプライバシーポリシーが元々統一されているので、1つの線としてつながった行動データを取得できる。この点がNTTドコモの強みであることは確かだろう。
流通小売業のオフラインマーケティングは課題が多いため、なかなか浸透しないといった声をよく聞く。このため開拓の余地は非常に大きいのではないかと筆者はみる。データを多く保有するだけでなく、スピード感を持って対応を進められるかどうかが各社の勝敗を握る鍵となりそうだ。