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テレサ・テン(鄧麗君、Teresa Teng)の残照

『ファースト・コンサート』

♪ふるさとはどこですかと、あなたはきいた♪この町の生まれですと、私は答えた♪ …… ♪生まれたてのこの愛のゆくえを祈ったの♪
「あなたにとって、ふるさとはなんでしょうか?ある人には、愛はあるかもしれません。私には、優しいお母さん、そして歌です。」
(※テレサのお母さんは、趙素桂さん。山東省出身で、優しく控えめで、料理上手な女性。2004年他界)
…♪ああ、そして幼い日のことを♪瞳をかがやかせ、歌うように夢のように、話したわ♪ふたりして行かないかと、私にはきこえたの♪
「どうもありがとうございました。みなさん、こんばんは。ようこそ私のファースト・コンサート、おいでいただきました。私とてもしあわせです。これから1時間半、力いっぱい、声続く限り歌います。みなさん、どうぞよろしくおねがいします。」
『ふるさとはどこですか』の歌に続き、実にきれいな日本語での挨拶。1977年4月22日に東京・新橋のヤクルトホールで、テレサ・テン ファースト・コンサートが開催されました。会場は、立ち見客まで出る超満員の聴衆で、熱気に包まれていたようです。

このファースト・コンサートを会場で聴いた音楽評論家の本橋栄治さんが、渡辺プロダクションタレント友の会発行の雑誌「ヤング」‘77・6月号に記事を書かれてますので、少し紹介してみましょう。
【『愛をあなたに・ふるさとはどこですか』というタイトルでのコンサートだけに、ヤングも、大人も、先を争って、駆けつけたようだ。男女半々の顔ぶれ。テレサ・テンが“特別町民”になっている福島県三島町の人たちもバスを借り切って乗り込んできたほどだ。…中略…ナマのステージに、あまり接したことのない聴衆は、びっくりして、あらためて、テレサ・テンの歌唱力を再認識する。客席のあちこちから、「うまいねえ」「素晴らしい」感嘆の声が沸き起こる。】

当時、テレサ・テンをテレビでしか見ていない人は、テレサを演歌歌手と思っていたことでしょう。そういう認識の人がこのコンサートを聴いたら、彼女のレパートリーの多さに、まず驚いたことでしょう。オリジナル曲から始まり、ムード歌謡、子守唄、民謡、フォーク、演歌、台湾民謡、ロックン・ロール、アメリカンポップス、中国語の歌、等々です。一人の歌手のコンサートでこれだけの様々なジャンルの歌を聞けたら、さぞかし得した気分になったのではないでしょうか。また、前述の本橋栄治さんの記事によると物真似まで披露したことが書かれていますので、少しご紹介します。
【島倉千代子の物真似で『からたち日記』をうたったとき、客席は、拍手の渦が巻き、さらに『岸壁の母』で舌を巻いたのだ。】
この2曲は、残念ながら私の持っているCDには、収録されておりません。今となっては、このコンサートを録音したテープが残っているのであれば、ぜひ聴いてみたいものです。テレサ・テンファースト・コンサートに実際に行って、生で聴かれた方が本当に羨ましい限りです。
このコンサート当日、1977年4月22日金曜日、何をしていたかまでは記憶にありませんが、出不精な私は、きっとテレビでも見ていたことでしょう。19時30分~TBS『野生の王国』、20時~NTV『太陽にほえろ』石原裕次郎主演、21時~TBS『赤い衝撃』山口百恵、三浦友和主演、22時~TV朝日『新・必殺仕置人』藤田まこと主演、23時15分~NTV『11PM』、という番組が当日放送されていましたので、これらの番組を見ていたはずですが、もう44年もの時が流れてしまいました。テレビ番組のタイトルを見るだけで、とても懐かしく感じます。もし今、1977年4月22日金曜日にそのまま戻れるならば、迷うことなくテレサのファースト・コンサートに行くでしょうが、残念ながら『それも夢なの♪夢なのみんな♪(アカシアの夢)』ですね。

このファースト・コンサートのタイトルにもなっている『ふるさとはどこですか』は、中山大三郎作詞、うすいよしのり作曲の歌で、福島県大沼郡三島町へテレサがこの歌のキャンペーンで訪れた時の写真が多く残っています。テレサは、記念植樹もしたようですが、残念ながら木を別の場所に植え替えた際に枯れてしまったようです。その時に三島町の人たちとの交流もさまざまあり、そのご縁でこのファースト・コンサートに貸切バスで参加されたのでした。

この『ふるさとはどこですか』には、ゆったりしたメロディーに乗せ、少し悲しく切ない恋のものがたりが唄われています。ロングトーンが多い曲なので、少し哀愁を帯びたきれいな声のテレサには、ピッタリの曲だと思います。

さて、コンサートはこの後、『空港』『女の生きがい』『雪化粧』とオリジナル曲が続き、それから『ふるさとの歌めぐり』と題して、『長崎は今日も雨だった』『五木の子守唄』『中国地方の子守唄』と歌っていき、司会の山崎イサオさんとの掛け合いがあります。

司会 「いろいろ旅なんかに行くでしょう?」
テレサ 「はい。私はねえ、日本の、あの、要するに地方ね。ほとんど行ってきたの。」
司会 「ほとんど行きましたか。」
テレサ 「それで、私の場合はね、何となく、行ったの場所はねえ、絶対ね、あの、」
司会 「行ったの場所!」(場内笑い、テレサもつられて笑う、テレサは「変なこと言ったかな?」と感じた様子)
テレサ 「要するに、行ったことありますの場所」
(場内爆笑、少し拍手あり、丁寧に言うと余計可笑しい)
司会 「ありますの場所が」
テレサ 「今度ね、もうひとつ、また行くの。」
司会 「また行くの。行ったことのある旅のところへまた行くのことか?」
テレサ 「はい。あれなんて言うか知ってる?」
司会 「知らない。」
テレサ 「ふたたび、と。」(場内笑いと拍手)

この掛け合いは、テレサが話しいている「行ったの場所」「行ったことありますの場所」という日本語が面白いのと、最後の「ふたたび」という落ちが見事で、何度聞いても笑えます。テレサのお兄さんが、「妹(テレサ)は台湾へたまに帰ると、みんなにお土産を買ってきてくれて、冗談を言ってはみんなを笑わせてくれた。」と思い出を書かれていました。またテレサ自身も、「コメディアンになりたかった。」と語ったこともあり、冗談を言うことは好きだったようです。この時の落ちもテレサが考えたのだとしたら、日本へ来てまだ3年ぐらいしか経っていないのに、よく考えられているなと感心しきりです。
次に『女ひとり』(※注1)『木曽節』『旅姿三人男』『花笠音頭』『襟裳岬』と各地をめぐる歌が披露されます。
続いて台湾民謡『阿里山的姑娘(高山青)』(※注2)です。お国の言葉で歌うと、テレサものびのびと歌っています。
それから、『懐かしのロックン・ロール・メドレー』と題し、『ダイアナ(インストゥルメンタル)』『スピーディー・ゴンザレス』『オー・キャロル』『悲しき雨音』『悲しき16才』『恋の売り込み』『カラーに口紅』と英語の曲が続きます。このコーナーでは、テレサが若い頃よく着ていたミニ・ドレスも披露しています。見事な脚線美だったとのことです。日本語より英語のほうが得意だったテレサは、のびのびと歌っている感じがします。やはりテレサは単なる演歌歌手ではないと納得するメドレーです。
そして、森進一さんの『港町ブルース』(※注1)、『何日君再来』(テレサにとっては、後に自らの運命を左右することになる曲になりました)、『香港の夜』(※注1)、『フォー・ワンス・イン・マイ・ライフ』(※注2)、『フィーリング』(※注2)、『夜の乗客』(※注1)、『アカシアの夢』、『夜のフェリーボート』と続きます。

その後、
『雨に咲く花(BGM)』で、テレサは参加者の皆さんへのお礼を述べています。

「みなさん、今日、あの、本当にありがとうございました。私のファースト・コンサートのために、こんなたくさんのお客さんきいていただ…来ていただきまして、私、何、お礼言っていいかわかりませんけど、でも、本当にありがとうございました。これからも、ずっと、日本、歌っていくつもりです。みなさんの温かいご声援、いつまでも(涙、会場拍手)忘れません。どうもありがとう(涙、会場拍手)…ございました。これからも一生懸命歌います、みなさん。(涙…涙…、会場拍手)みなさん、どうぞよろしくおねがいします。どうもありがとうございました。(涙…涙…、会場拍手)どうもありがとうございました。」

テレサの謙虚で、ひたむきな姿勢が、言葉の端々に感じられるお礼の言葉の数々です。テレサは涙もろい人でしたが、このコンサート以外でも、様々な場面でのテレサの姿に、その人柄の素晴らしさに、私は何度も感動しました。このファースト・コンサートでも、特にこの最後の場面に、テレサの人間的な魅力が溢れています。テレサは、うれし涙を流しすぎて、とうとうツケマツ毛までとれてしまったと前述の本橋栄治さんも書いておられます。

最後に『ふるさとはどこですか』を歌い、アンコールでは、『空港(アンコール)』(※注1)を歌ってフィナーレを迎えました。

1977年4月22日金曜日のテレサ・テンファースト・コンサート、CDで聴くと笑いあり、涙ありの本当に素晴らしい、感動的なコンサートでした。涙ながらに何度もお礼を述べるテレサの言葉が、とても心に残りました。今となっては、せめて「テレサ・テンさん、日本でコンサートを開催してくれて、本当にありがとうございました。あなたの楽しくて、優しくて、ひたむきな姿に本当に感動しました。」と天国のテレサに気持ちを届けたいと思います。

(※注1:当時発売のLPとそれをCD化したアルバムには未収録)
(※注2:当時発売のLPとそれをCD化したアルバムでは収録の順序が違う)

※参考資料
・CD『テレサ・テンファースト・コンサート 愛をあなたに-ふるさとはどこですか-』
ユニバーサルミュージック
・CD『テレサ・テン(鄧麗君)ファースト・コンサート』ユニバーサルミュージック
・『ヤング ‘77・6月号』  ■特別寄稿■ 本橋栄治 クローズ・アップ テレサ・テン
・『テレサ・テン 42歳の生涯』 発行株式会社ジェーピー
・平野久美子著『テレサ・テンが見た夢』筑摩書房刊

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