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テレサ・テン(鄧麗君、Teresa Teng)の残照

『台湾亡命』

香港が中国の政治的圧力により、言論の自由を奪われてしまった今、台湾は中国系の人々にとって、自由と民主主義を守るための最後との砦となっています。
10月に入って、台湾が設定する防空識別圏に進入する中国軍機の数が急増しており、今後の中国の動向が気になるところです。
いずれにせよ、これからも末永く台湾の自由と民主主義が守られることを願うばかりです。

さて、1982年10月16日、中国の空軍上尉の呉栄根が山東半島の文登基地からミグ19型戦闘機に乗って韓国経由で台湾へ亡命しました。
この時の様子が有田芳生著『私の家は山の向こう』に載っていますので、少しご紹介します。

【呉は「自由を求めた」と語るなかで大陸にいるとき台湾の中央テレビ局の放送を聞くことができたが、そのなかでも「テレサ・テンタイム」が印象深かったと語った。
・・・中略・・・呉は「テレサ・テンに会いたかった」とも語っている。台北ではテレサも同席する記者会見が行われたため、さらに話題となった。】有田芳生著『私の家は山の向こう』 第三章 P.85より

テレサは、1979年に起こした「偽名パスポート事件」により日本を離れ、しばらくアメリカで暮らしていたのですが、1980年には、祖国台湾へと戻っていました。

台湾政府も、当時中国大陸で「何日君再来」が大流行し、人気が沸騰していたテレサを、政治的に利用したいと思うのも当然といえば当然のことです。

台湾政府の意向もあり、中国大陸に向けて、テレサの番組を放送したり、テレサのカセットテープを風船につけて気流に乗せて飛ばしたり、様々にテレサの歌声がプロパガンダに利用されていったのでした。

台湾に生まれたテレサの歌が、中国大陸でも大人気を博し、影響力が大きくなったことで、否応なしにテレサと政治との関係は深くならざるを得なかったのです。
後年テレサが、自由と民主主義のために活動をするようになった背景には、彼女の置かれたこのような状況があったわけです。

さて、この1982年に台湾へ亡命した中国の空軍上尉の呉栄根のニュースを、私が当時勤めていた会社の社員寮のテレビで見た記憶があります。

社員寮の食堂で社員5~6人で食事をしながらテレビを見ていたのですが、中国の空軍上尉の呉栄根が亡命したとのニュースが流れ、空港に着陸しているミグ19型戦闘機が映し出されると、思わず「うおー」と声を上げたことを覚えています。韓国の空港へ緊急着陸したのでしょうが、その映像が映画のワンシーンのようで、すごくかっこよかったのです。

ニュースを見ていた同僚も「すごい!かっこいいなあ!」と叫んでいましたが、当の呉栄根は、命がけの亡命に成功し、さぞかし一安心していたことでしょう。

台湾では、亡命した呉栄根は英雄あつかいされ、莫大な金塊が与えられたとのことですが、ニュースが大大的に報道され、中国からの亡命者が増えれば、費用対効果は十分すぎるものがあると思います。

それはともかく、テレサはアメリカでの1年余りの自由な生活を終え、1980年に台湾へ帰国するのですが、この頃から政治との関わりが深くなり、やがて自由と民主主義を守るための活動をするようになっていきます。

この間、中華人民共和国という大国もテレサという一人の女性歌手の動向に翻弄され、右往左往してしまうのです。このあたりのエピソードは稿を改めてご紹介したいと思いますが、一人の若い女性歌手が中国という大国を翻弄するさまは、実に痛快というほかはありません。

しかし、残念ながらテレサは、1995年5月8日に42歳という若さで天国へと召されてしまいました。

テレサの人生は、あまりにドラマチックで、テレビドラマや演劇にもなりました。
ミグ19型戦闘機で亡命した呉栄根のニュースは、映画のワンシーンのようで、かっこいいと書きましたが、その事件とは比べものにならないくらいテレサの人生は波乱万丈で、面白いエピソードにも事欠かないので、映画にするにふさわしいものだと思います。映画が上映されると、きっと多くの人々の涙を誘うものとなることでしょう。ぜひ見てみたいですね。

さて、映画の世界から現実の世界へと話を戻しますと、まもなく衆議院議員選挙が公示されます。
自由と民主主義が本当に守られる世界を生み出したいというテレサの願いは、志半ばに終わってしまった感がありますが、あとに残されたものとして、ぜひともテレサの遺志を引き継ぎたいと思っております。

とは言え、私のような凡人にできることは限られておりますが、千里の道も一歩からという言葉もありますので、まずは選挙に関心を持ち、自由と民主主義が守られる明るい未来を託せる候補者や政党を選び、自らの清き一票を投じるところから始めたいと思っているところです。


※参考資料
・有田芳生著『私の家は山の向こう』文芸春秋刊
・平野久美子著『テレサ・テンが見た夢』筑摩書房刊

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