つらつら日暮らし

『菩薩善戒経』に見る諸戒について(1)

『菩薩善戒経』という経典がある。「菩薩」という名前に見える通り、大乗経典ではあるのだが、その中で様々な大乗戒について説いているのが特徴である。そこで、今回のタイトルの通りなのだが、本経典で示される諸戒を見ていきたいと思う。

 難戒とは、三種有り。
 一つには菩薩、大自在に財富無量、悉く能く捨離すること有りて、菩薩戒を受く、是れを難戒と名づく。
 二つには菩薩急難の時、猶お戒をして微かの瑕析も有らしめず、況んや復た毀破せんや。是れを名づけて難戒と為す。
 三つには菩薩、衆生の行住坐臥に随うと雖も、常に堅く持戒して毀犯せしめず、是れを難戒と名づく。
    『菩薩善戒経』「優波離問菩薩受戒法」


漢訳仏典で、「難戒」という語句はそれほど多く見られるわけでは無い。しかし、本経典との関わりが以前から取り沙汰される『菩薩地持経』巻5「菩薩地持方便処戒品之余」に同じ項目が見られる。

 難戒とは略説すれば三種なり。
 菩薩、大財大勢力を具足すれども、能く捨てて出家し、菩薩戒を受く。是れを第一難戒と名づく。
 菩薩、若し急難に遭うて、乃至、失命すれども、受くる所の戒、欠減せしめず、況んや具足を犯すをや。是れを第二難戒と名づく。
 菩薩、一切の修行、一切の正受、一切の憶念に於いて、心、不乱に住して、乃至、寿を尽くして、細微戒に於いて終に欠減せず、何に況んや重きをや。是れを第三難戒と名づく。
    『菩薩地持経』巻5「菩薩地持方便処戒品之余」


このように、ほぼ同じ内容を持っていることが理解出来るであろう。それで、両経典から、「難戒」を探ってみたいと思うのだが、財産を無量という程に持っていたとしても、それを全て捨てて出家し、菩薩戒を受けるという。それを「難戒」と名づけているのだが、要するに、なし難いことをなして、戒としていることにおなる。

それから、続くものは、急難(差し迫った困難)の時にも、戒については非常に微細なことでも破ったりしないという。これも、「難戒」という。

更に、菩薩は凡夫たる衆生の行住坐臥に随って生きるとしても、常に固く持戒して破ることは無いという。これも、「難戒」だとしている。このように、菩薩にとっての持戒や受戒のあり方について、3つの行じ難いことを「難戒」と名づけているのである。

ところで、第一難戒は、喜捨(布施)の心を示したものである。第二難戒は、自分が急難であっても、命を失っても、いさささかの戒も欠かさないという堅固心の発露である。第三難戒は、一切の状況に於いて持戒をしていくという覚悟を示したものだが、個人的には『善戒経』に於ける「衆生の行住坐臥に随う」という一文に関心を持っている。

つまり、凡夫たる衆生と違う存在では無いということで、いわゆる「同事行」ではある。よって、菩薩が衆生と共なる生き方をするにせよ、持戒することを意味している。最初、「三聚浄戒」との関連もあるかと思いきや、そこまで強い繋がりがあるわけでは無かった。続く諸戒はまた、別の記事で扱っておきたい。

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