一時、羅睺羅阿修羅王、月を噉まんと欲す、月天子、怖じて疾く仏所に到り、偈を説いて言わく、
大智成就仏世尊、我今帰命し稽首し礼す、
是れ羅睺羅、我を悩乱す、願くは仏、憐愍して見て救護したまえ。
仏、羅睺羅と偈を説いて言わく、
月能く闇を照らし清涼なり、是れ虚空中の大灯明なり、
其の色白浄にして千光有り、汝、月を噉むこと莫く疾く放ち去れ。
是の時、羅睺羅怖懅し汗を流して、即ち疾く月を放つ。
婆梨阿修羅王、羅睺羅の惶怖して月を放つを見て、偈を説き問うて曰わく、
汝、羅睺羅何を以ての故に、惶怖戦慄して疾く月を放つや
汝、身より汗を流すこと病人の如し、心怖れ安んぜず乃ち是の如し。
羅睺羅、爾の時、偈を説いて答えて曰わく、
世尊、偈を以て我に勅す、我、月を放たねば頭七分す、
設い生活を得れども安穏せず、以て故に我今、此の月を放つ。
婆梨阿修羅王、偈を説く、
諸仏甚だ値い難し、久遠に乃ち出世す、
此の清浄の偈を説いて、羅睺即ち月を放つ。
『大智度論』巻10「初品中十方菩薩来釈論第十五之余」
このように、インドでは月食は月を悪魔が食べるというイメージだったらしい。上記の内容について、簡単に見てみようと思う。
まず、羅睺羅阿修羅王(以下、ラゴラ)が月を食べようとしたので、月に住む天子が恐怖し、仏のところに行って詩を詠んだ。「大智を成就したまう仏世尊よ、私は今帰依し礼拝いたします。ラゴラが私を悩ませます。願わくは仏陀よ、憐れみをもって助けて下さい」と。
すると、仏陀はラゴラに対して詩を与え、「月はよく闇を照らし清涼である、これは虚空の中にある大灯明である。その色は白く浄く千の光がある。そなたは月を食べること無くすぐに放して去れ」と命じた。
この詩を聞いて、ラゴラは恐怖し、全身から冷や汗が流れ、すぐに月を放した。その様子を見た、婆梨阿修羅王(以下、バリ)は、詩を詠んでラゴラに尋ねた、「ラゴラよ、何故そこまで恐怖し戦慄してすぐに月を放したのか。冷や汗が全身に流れる様子はまるで病人のようだ。心に恐怖があり、不安な様子である」といった。
ラゴラも詩を詠んで答え、「世尊が詩をもって自分に命令された。私がもし月を放つことが無ければ頭が粉々になることだろう。もし、生活を得ても、それに恐怖して安穏とはしない、よって、私はすぐに月を放したのだ」と。
バリはその詩を聞いて更に詩を詠んだ、「諸仏には遭うことが難しい、久遠という無限の昔に出世されるからである。しかし、今回はこの清浄の詩を説いてくれたので、ラゴラはすぐに月を放した」と。ラゴラは、悪行をしたが故に、かえって仏陀に逢うことが出来たという話になっている。
しかし、詩偈を詠む暇があったということで、あまり切羽詰まった話に思えないところが、面白かったりする。昨日も、仏陀の命令によって、ラゴラが月を放したので、月食が無事に終わり、今日もまた、虚空の大灯明として輝くことだろう。
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