つらつら日暮らし

2月2日 「頭痛の日」と禅問答

今日2月2日は「頭痛の日」らしい。何か重要な理由でもあるのかと思っていたら、「2(ず)・2(つう)」という語呂合わせとのこと・・・それで、「頭痛」といえば、有名な禅問答があることをふと思い出したので、勢いのまま記事にしてみたい。

 問う、四句を離れ、百非を絶し、請うらくは師よ、西来の意を直指せよ。
 師云く、我れ今日、心情無し。汝、西堂に去りて智蔵に問取すべし。
 僧、西堂に至りて問う、。
 西堂、手を以て頭を指して云く、我、今日頭痛なり。汝の為に説得すること能わず。汝、去りて海兄に問え。
 僧、去りて海兄に問う。
 海兄、云わく、我に到る者の裏、却って会せず。
 僧、回りて、師に挙似す。
 師云く、蔵頭白、海頭黒と。
    『天聖広灯録』巻8「馬祖道一章」


やはり頭痛といえば、西堂智蔵の禅問答である。まず、この問答の流れについて、簡単に見ておきたい。これは、中国禅宗南嶽下の、馬祖道一禅師(709~788)の会下に於いての問答から始まっている。主語は無いのだが、おそらくは或る僧侶が馬祖に対し、四句や百非といった、言語や概念を絶したところで、達磨大師による「西来(西から来た)」の意味を教えて欲しいと願った。

ところが、馬祖は「今日の自分には、心情(気分のこと)がない」とし、よって、弟子の一人である西堂智蔵(735~814)の下を訪ね、質問しなさい、と答えた。

よって、この僧侶は西堂の下に行ったのだが、同じ質問を聞いた西堂もまた、自分の頭を指差しながら、「自分は今日、頭痛である。君のために説いてあげることが出来ない。君は、海兄(百丈懐海のこと)の下に行き、そこで質問しなさい」と答えた。

2人から回答を断られたこの僧侶は、また真面目一辺倒(まぁ、この辺がもうダメなんだけど)で、百丈懐海(749~814)の下に行ったのだが、今度は「ここにまで来てしまうと、かえって理解できない」といい、結局正面から何かを教えてくれることはなかったのであった。

そして、この僧侶は馬祖の下に帰ると、2人の言葉を伝えたのだが、馬祖は「智蔵の頭は白く、懐海の頭は黒い」と評するのみであった。

まぁ、後は解釈していきたいと思うのだが、残念なのはもちろん、この質問しに行った僧侶本人である。元々、言葉や概念を絶したところで教えて欲しいと願っているのだから、容易く理解できるように教えてくれるはずがないのである。よって、馬祖は西堂のところに追い払ったとも言える。とはいえ、西堂はどこか、教学的なところがあるから、果たして、言葉や概念を絶したところを教えてくれるかどうか・・・

そうしたら、西堂はここで、「頭痛なので教えられない」と、気の利いたことを述べた。しかも、兄弟弟子になる百丈懐海のもとに行け、とも告げた。西堂が教学的なら、百丈は禅定家であるといえる。

そのため、百丈の言葉に期待がされるところだが、結果としては、ここでも分からない、という教えであった。だが、この分からなさとは、既に「西来の意」はこの質問者の足元にある。よって、外に向けて探すばかりでは、いつまで経っても得られないのである。そのため、「本来の位置」である馬祖の下に帰ったのは、或る意味で正解に近づいたと思われるのだが、また真面目に馬祖に報告し、そこで馬祖は、智蔵と懐海の様子を評した。

ところで、この「蔵頭白、海頭黒」について、従来の禅僧は、どう解釈してきたのだろうか。一例を見ておきたい。有名なところでは、圜悟克勤禅師『碧巌録』第73則の本則への著語であろうか。「寰中の天子勅、塞外の将軍令」とある。ただし、これらは天子は天子で自らのことをなし、将軍は将軍で自らのことをなした、という「讃嘆」の意味で採ることができる。また、同則での「頌古」についても見ておくと、「蔵頭白海頭黒〈半合半開、一手擡一手搦、金声玉振〉」とあり、ここでは2人の関係性を、ただの同異のみで捉えることの無意味さを説いていることは明らかである。

いわば、2人の関係性など、本来の「西来意」を探ることにすれば、非常に小さな問題である。結局、この僧侶は、馬祖や西堂に言われて、祖師方を訪ねたが、転ずれば仏法の働きによって行動したのである。そのことに気付くだけで良かったのに、この僧侶は何か、分かりやすい意味があると、「西来意」を探してしまったところに、大きな問題がある。そういう僧侶を前にした時、馬祖は心情を無くし、西堂は頭痛になり、そして百丈は煙に巻いた。

だが、これらの三祖師もまた、仏法の働きに従っただけなのである。

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