令和4年壬寅(みずのえとら)の「新春」でございます。
何故、「新春」と表現するかといえば、旧暦では、1~3月が春の季節でしたので、元旦は、同時に新たな「春」の幕開けでもあったのです。今は、立春の時期が2月頭にずれてしまいましたので、言葉だけが残った格好です。
旧年中は、拙ブログ「つらつら日暮らし」、及び、「つらつら日暮らしWiki〈曹洞宗関連用語集〉」をご愛顧いただきましてありがとうございました。
拙ブログとしては、新型コロナ禍の中、毎日の職務も色々とありましたが、何とか1年間、運営できましたことは、ひとえに読者の皆様のおかげでございます。そして、御礼を申し上げながら恐縮ではございますが、本年もよろしくお願いいたします。
さて、新年に当たり、やはり禅門として学ぶべき有名な問答を見ておきたいと思います。
師、乃ち挙す。
僧、鏡清に問う、「新年頭、還た仏法有りや也た無しや」。
清、云く、「有」。
僧云く、「如何なるか是れ新年頭の仏法」。
清云く、「元正啓祚、万物咸新なり」。
僧云く、「師の答話を謝す」。
清云く、「老僧、今日失利」。
又た僧、明教に問う、「新年頭、還た仏法有りや也た無しや」。
教云く、「無」。
僧云く、「年年是れ好年、日日是れ好日なり。什麼と為てか却た無しや」。
教云く、「張公酒を喫すれば李公酔う」。
僧云く、「老老大大、龍頭蛇尾なり」。
教云く、「老僧、今日失利」。
師、乃ち云く、「鏡清の失利、即ち問わず。爾るに諸人、作麼生か是れ明教失利の処。若し人、弁得すれば、文殊の頭白し、普賢の頭黒し。若し弁ずることを得ざれば、黄檗、今日失利」。下座。
『黄竜慧南禅師語録』巻1
これは、中国北宋代の黄竜慧南禅師(1002~1069、中国臨済宗黄竜派)の説法ですが、有名な鏡清道怤禅師(868~937)の「新年頭の仏法」を採り上げています。簡単に訳しつつ見ていきましょう。
或る僧が鏡清禅師に「新年には仏法が有るでしょうか、無いでしょうか」と尋ねました。すると、鏡清禅師は「有る」と答えた。質問者は「それでは新年の仏法とはどのようなことでしょうか」と問うと、鏡清禅師は「新年は幸いを開き、全てが新たになる(ほどに目出度い)」と答えました。問者は、「お師匠さまのお答えに感謝します」と答えた。しかし、鏡清禅師は「老僧(私)は、今日、利を失った」としました。
この僧は更に、仏日契嵩禅師(1007~1072、明教大師)に同じ問いをした。なお、黄竜禅師と契嵩禅師は同世代の人なので、同時期に良く知られたことだったのだろう。そこで、契嵩禅師の答えは、新年の仏法は「無い」と答えた。すると質問者は「年年は全てが良い年で、日日は全てが良い日にちです。どうして、無いと言えるのでしょうか」と質問しました。すると契嵩禅師は「張さんが飲酒すれば、李さんが酔う」というように、働きには分別が無いと答えました。しかし、質問者は、「御老僧、そのお答えは龍頭蛇尾ですな」と指摘しました。契嵩禅師は「老僧(私)は、今日、利を失った」としています。
そこで、黄竜禅師はこれらの問答を締め括られて、「鏡清禅師の失利は問わないが、諸君、契嵩禅師の失利とは何だったのだろうか。もし、これを明らかにすれば、文殊菩薩の頭が白く、普賢菩薩の頭が黒いということだ。そして、明らかに出来ないのであれば、黄檗(私)が今日、利を失った、ということだ」と仰ると、法座を下りられました。
とりあえず以上ですが、禅問答は様々な譬えと、お約束が多いので分かりにくいと思います。しかし、いわんとするところは、分別の否定と、各々の仏法の働きの肯定とを同時に行わねばならないということです。黄竜禅師の答えも、文殊菩薩と普賢菩薩と二菩薩を挙げていつつ、各々が白頭と黒頭になっています。ここで分別だといえばそれまでです。しかし、これは分別ではないのです。一方で、契嵩禅師の答えは張さんと李さんを挙げていますが、相互の働きを関連させてしまっているので、各々の独立性が出て来ないのです。
この辺をどう道得(表現)していくか、ですね。
さて、末尾ではございますが、禅僧の常として、「大吉」の語を以て新年をお祝いいたしたく存じます。
正旦の上堂。
今朝、正月初一たり。一たび上上の大吉を挙せば、吉、利ならざること無し。春風、和気し、散じて花梢に入る。
百草頭の塵塵、刹刹、風流を転ず。
天童如浄禅師『如浄録』
天童如浄禅師もこのように、新年の大吉を採り上げておられます。その吉が春風と和気し、木々の梢に入り、あらゆる草が皆、大吉の仏法を明らかにしているわけです。これもまた、分別を破しつつ、各々の働きを肯定した禅僧の言葉です。当方も同じく、皆さまの歳朝の大吉を祈りたいと思います。合掌
この記事を評価して下さった方は、にほんブログ村 仏教を1日1回押していただければ幸いです(反応が無い方は[Ctrl]キーを押しながら再度押していただければ幸いです)。
最近の「仏教・禅宗・曹洞宗」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
2016年
人気記事