つらつら日暮らし

『釈氏要覧』に見る「具足戒」について

辞書的な文献である『釈氏要覧』の記述を学んでおきたい。

  具足戒
 即ち出家の二衆、受戒するところなり。何をか具足と名づくるや。
 決定蔵論に云わく、比丘戒、四分の義を摂す。
  一には具足を白四羯磨して受くるなり。
  二には具足するに随い、謂わく此の向後より、一一の戒に随い、常に持して覆護するが故に。
  三には他心の具足を護る。謂わく比丘一分の威儀具足するに他心を護ると名づく。
  四には守戒を具足す。謂わく小罪を見るに於いて畏れて犯さず。若し犯有る者は、悉く皆な発露するが故に。
 此の具足戒、六聚有り。比丘二百五十條、尼三百五十條なり。次に釈すること左の如し。
    『釈氏要覧』巻上、明治期の版本を参照しつつ訓読は当方


具足戒とは、一般的には受戒したことで功徳が具足し、持戒がされていくという風に説明されると思うのだが、上記の内容だと、『決定蔵論』という文献を引きつつ、4つのことを論じている。それで、一応、訓読はしてみたのだが、今一つ分かりにくい。そこで、出典は『大正蔵』巻30に収録されていることが分かったので、そちらからも引用してみた。

 比丘戒は四分の義を摂す。
 一つには具足の分を受く。
 二には具足戒に随って制戒律を受く。
 三には他心戒を護る。
 四つには守戒を具足す。
    『決定蔵論』巻中「心地品之二」


・・・あれ?そうなんだ。何だろう?なんか、『釈氏要覧』にある説明文みたいなのが、とりあえずは無くて、スッキリしている。そして、続く文章で、説明書きがされているようである。

 具足の分を受くるとは、白四羯磨して、大制を受けるが如し。初めより此の比丘禁戒に依る。是れを比丘受具足分と名づく。
 此れより向後、比丘戒の波羅提木叉、謂わく正命等に随う。此れ一切処に恒に持して覆護す、是れを随具足戒受制戒律と名づく。
 此の二分の威儀具足有り、是れを護他心戒と名づく。
 威儀行処は声聞地の如し。後に自ら当に説くべし。小罪中に於いて見るに畏れて重戒と同じく犯さざる、若し犯す者有れば、皆な悉く発露す、是れ則ち名づけて具足守戒と為す。
    同上


とりあえず、以上の部分を読んでみると、なるほど良く理解出来る気がする。こうなると、一~四に向けて次第に深まっていく具足戒の意義であったように思われる。だが、『釈氏要覧』のように略してしまうと、その微細な関係が見えなくなってしまう。個人的には、3つめの「護他心戒」が気になる。これだけが良く分からない。ただし、おそらくは、比丘本人が持戒することで、世間の人々も持戒について理解したりする様子を指しているのだろう。

それから、『釈氏要覧』で気になるのは「六聚」である。これは、具足戒に於ける破戒の罪の軽重の段階を示した言葉だが、一般的には「五篇七聚」というが、「六聚」という場合もあるという。以下の一節などはどうか。

 初中、五篇七聚、約義の差分に約し、正に罪科を結び、樹の六法に止まる。
 今、六聚に依れば、且らく其の名を釈す、
  一には波羅夷、
  二には僧伽婆尸沙、
  三には偸蘭遮、
  四には波逸提、
  五には波羅提提舎尼、
  六には突吉羅なり。
 此の上の六名、並びに正訳無し。但だ義翻を用い、略して途路を知る。
    南山道宣『四分律刪繁補闕行事鈔』巻中「篇聚名報篇第十三」


以上のような「六聚」の数え方もあるという。『釈氏要覧』では、この詳細を以下のように書いている。

  六聚
 増輝記に云わく、若し正に罪名を結べば、能く当果を招く。
 即ち五篇、太だ少なし、偸蘭を説かず。
 七聚、太だ多し、悪説は剰る。悪説を以て吉羅懺罪と同じくす。感果を感ずるに同じきが故なり。今、五中に於いて偸蘭遮を添える。七中より悪説を除きて六有るに止まる。
    『釈氏要覧』巻上


こちらだと、五篇・七衆の両方ともに過不足があるので、『釈氏要覧』では具足戒で「六聚」を採用することになったようである。この辺、他には余り採用例が無いようなのと、あくまでも中国で律蔵を訳す時に採用されたようなので、この辺は話を膨らましようが無い。あ、日本ならあるのかも?!

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