つらつら日暮らし

恵心僧都源信『出家授戒作法』について

天台宗の恵心僧都源信(942~1017)が作者の名前に冠せられている『出家授戒作法』(『大日本仏教全書』第33巻所収)が存在している。無論、昨今の研究では、当作法書が本当に源信作かどうかについては、慎重な判断を求められるようになっているけれども、中世の天台宗が行っていた得度作法を伝えるものとして、貴重である。

それで、拙ブログの問題意識に基づいてこの作法書を読み解いてみるとどうなるか?記事にしてみたいと思う。

まず当作法書の差定としては、以下の通りである。

・準備
・四方洒水
・受者の四方礼拝
・剃髪
・法服被着(袈裟以外)
・三礼
・毀形唄
・薬師散華
・表白
・周羅の一結を剃除(ただし、周羅の一結とは表現されない)
・袈裟授与(法名授与含む。搭袈裟偈)
※以下、授戒
 三帰戒
 菩薩沙弥戒(従今身至仏身)
・四弘誓願
・回向


以上である。それで、特記すべきは、「袈裟授与」と「菩薩沙弥戒」である。まず前者の一節については以下の通りである。

次に出家者、手に袈裟を捧ぐ。和上三度、出家者の頂上に置く。即ち衣を著け、法名を与う。

ここで、「法名授与」が行われている。道元禅師の『出家略作法』では「法名授与」が無いため、その差異が際立つ所ではある。それから、この時に授けている「袈裟」の種類についても興味は湧くが、よく分からない。しかし、当作法書では、比丘ではなくて「沙弥」にしていることとなる。

何故ならば、三帰戒の後で授けられるのが「菩薩沙弥戒」だからである。ただし、この時の戒本について、本書では「今、此の十種波羅提木叉は、是れ釈迦牟尼如来己心中の法、仏法の根本なり」とあって、多分に『梵網経』が前提されているような雰囲気はあるのだが、では「菩薩沙弥戒」として挙げられている十条は、「不殺生・不偸盗・不婬欲・不妄語・不飲酒・不説過・不自賛毀他・不慳貪・不瞋恚・不謗三宝」となっている。これは、一般的な「沙弥十戒」とは相違している。

また、『梵網経』の場合、十重禁戒は「不飲酒」では無くて「不酤酒」のはずだが、それも相違している。よって、『梵網経』を基本にしつつ、独自の沙弥戒を授けていたということになるだろうか。

後、拙僧的に気になるのは、「懺悔」と「三聚浄戒」の位置付けである。両方とも見えない。「沙弥戒」は正式な授戒ではないとも判断出来るから、「懺悔」をせずに「沙弥戒」授与のみ行ったということか。それから、「三聚浄戒」については、或る意味で菩薩戒の根本だと思うのだが、『梵網経』本来は無いため、その形に近いともいえるか。

よって、繰り返しになるが、本書は出家者を「菩薩沙弥」にするための儀式であることが分かる。また、「法名授与」について明記されていることも注目しておきたい。そして、鎌倉時代の祖師方の出家にも活用されたものなのかどうか、その辺の検討を進める際にも参考になるといえよう。

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