1970 年頃、四つ年上の兄が「これいいぞ、聴いてみろ」とサイモンとガーファンクルのLP「明日に架ける橋」を渡してくれました。ちょうど私が高校生の頃の話です。何回も何回も聴いている内に、私はすっかりS&Gの虜になってしまいました。ポール・サイモンは私のギター・ヒーロー!彼の演奏センス、テクニックにはしびれました。必死でコピーしました。
ポール・サイモンの使用ギター
憧れのアーティストと同じギターが欲しくなるのはいつものこと。当然のように、P・サイモンが弾いているギターを夢見るようになりました。
彼が使用していたギターは Guild F30NT Special "Aragon" というモデル(写真1、2)。でもこのモデル、当時のGuild社の製品ラインナップにはありません。P・サイモンがギルド社に特別にオーダーした特注品だったからです。レギュラーモデル F30をもとに、デザインはほぼそのままに、ボディー材をマホガニーからハカランダに変えた特別製。P・サイモンだけの特別なF30だったのです。
【写真1】ステージで 特注の"Guild F30RNT"を弾くP・サイモン
【写真2】近年になって紹介された P・サイモンのものと全く同仕様の1台(1960年代製)。オーダーを受けた時に、メーカー側でついでに数本一緒に造ったのかもしれませんね。
🌟Guild F30RNT/#57248(1971年製)🌟
ところが、ある所にはあるものです。あれから30年経った2004年、今回紹介するギターに巡り会いました。P・サイモンの特注品と非常によく似た仕様のギターです。1970年代初め、P・サイモン・フリークの要望に応じて、ちょこちょこ製造されたのでしょう。今回のギターもその内の一本ではないでしょうか。多少の仕様変更はありますが、ボディー材、ヘッド・インレイ、ポジション・マークなど、明らかに特注品をイメージしています。
それでは長年の念願が叶って購入に至った"Guild F30RNT"を紹介しましょう。
【写真3】写真2のF30NT Special やレギュラー品のF30には、2と3フレットの間にポジションマークが付いていますが、このギターにはありません。ブリッジとサドルも70年以降の仕様、ボディー・シェイプは丸みが少なくエラが張った60年代の仕様を継承しています。指板は黒っぽくエボニーのようです。
【写真4】ボディー材にはインディアン・ローズウッドが使用されています。ボディー・バインディングも白いタイプです(レギュラー品F30は黒)。
【写真5】ヘッド表のチェスター・フィールド・インレイとアジャスター・カバーは60年代と同じ。この60年代仕様が良いのです。70年代になるとインレイの下側の縦線3本がなくなり、アジャスター・カバーの形状も変わります。ペグは「GUILD」の刻印が入ったシャーラーペグが付けられています。
【写真6】ボディー表と裏のアップです。60年代の横にエラが張ったようなボディーシェイプです。この形が良いのです。70年代なると、より丸みの強いシェイプに変わります。P・サイモンのは言うまでもなく60年代タイプです。ピックガードも黒ではなく鼈甲柄、裏板のローズウッドの木目が良いですね。
【写真7】サイドのローズウッドの様子です。これがハカランダなら言うことなしですが、目の玉が飛び出るような金額で、とてもとても手が出なかったでしょう。
【写真8】サウンド・ホールからモデル名とシリアル・ナンバーを読み取ることができます。Model:F30R N.T. 、Serial No.:57248と手書きされています。モデル名の最後についている“RNT“は、“R“はローズウッド、“NT”はナチュラル仕上げのこと。
【写真9】専用ギター・ケースに入った姿です。把手は壊れて代替品が付けられています。古いギター・ケースの宿命です!
この60年代仕様に近いF-30ローズウッド特注バージョンがあることは知っていましたが、市場に出ることはほとんどありませんでした。このモデルに出会えたのは本当にラッキーでした。1973年頃にローズバージョンのF-30Rが正式にメーカーから発表されますが、ボディー・シェイプが丸みを帯びた70年代のものに変わっていました。P・サイモン人気から80年代にもF30RNTが(一部日本向けに)販売されましたが、これはギターのデザインがまるっきり違いました。F-50Rを小型化したF-30バージョンです。
60年代のボディー・シェイプ、ヘッド・インレイ、アジャスター・カバーを備え、且つドット・ポジション・マークでローズ・ボディーの"Guild F30RNT"を入手できたことは、ラッキーとしか言いようがありません。
今回は気持ちが入り過ぎました。ふ〜っ。次回もGuild ギターを紹介しましょうか、Guild ギター Part2です。お楽しみに!