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ハラスメント・いじめ問題を考えましょう

最近のパワハラ判決の動向-判決に学ぶ(1)

最近の注目されるパワハラ判決を紹介し、判決から学ぶというシリーズです。

第1回は、東京地裁令和4年4月28日判決(令和2年(ワ)第3397号)を取り上げます。

 

<事案の概要>

 信用金庫の部長が、職員に精神的苦痛を与える発言をしたことによりその職員に通院治療に至らせたことについて降職・降格の懲戒処分を受けたことについて、当該部長が懲戒処分は無効と主張した裁判で、裁判所は部長の職員への発言はパワハラに当たるとして請求を棄却しました。

 

 判決では、パワハラとして問題になった3つの発言について、次のように指摘しています。

①「あなたさ、重要なシステムのID、パスワードをメールで送ってるけどさ、何考えてるの。メールにペタペタ貼り付けて、ccに部長とAを入れて、勝手に送ってるけど、何のつもり。自分のやってることわかってんのかよ。係長のくせにそんなことも分からないで、何勝手なことしてるんだよ。」

この発言は、何らの根拠もないままに職員の業務遂行が不適切であると決めつけて一方的に非難するものというほかない。

②「外部から来てただでさえ周りから受入れられていないのに、勝手なことしてさぁ。あなたが勝手なことをしてるって皆言ってるぜ。」

この発言はメール送信方法の当否とは関連しない事柄であって業務上の注意、指導としての発言であるとはいえず、むしろ、自らの職員に対する悪感情を他の職員の総体的な意見であるかように置き換えて当該職員が周囲の職員から受け入れられていない旨を告げて相手の人格を否定するものであり、甚だ悪質というべきである。

③「ついでだから言うけど、この前のBへの態度『言いましたよね、言いましたよね』ってまくしたてるように言ったけど、あの態度も気に入らないんだよ。」

この発言も、上記のメールの送信とは無関係の事柄であり、その発言内容に照らせば、職員同士の業務上のやり取りに関して生じた問題に対する指導というよりも、職員に対する悪感情の発露としてされたものと推断せざるを得ない。

 

 これらのことから裁判所は、懲戒処分は相当と判断したものです。

 

<判決に学ぶ>

 この判決でパワハラとして問題となった発言は、上司から部下への叱責時の発言として決して特異なものではないでしょう。

これらの発言がパワハラとされたポイントは次の点です。

①叱責の対象となった業務遂行を不適切と決め込んでいること、

②叱責の対象となった業務とは無関係の事項を叱責していること、

③相手の人格を否定する発言であること、

④自分の悪感情の発露であること、です。

特に①の根拠のない叱責はそれだけでパワハラになりえます。上司の立場にある役員や管理職はこのことに十分留意する必要があります。

 なお本件での発言は、当該職員が発言直後にメモしたものとして信用性があるとされ判決の根拠となっています。発言が録音されていなくても、発言直後のメモであれば信用性があるとされることも参考になります。


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