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ハラスメント・いじめ問題を考えましょう

わいせつ保育士根絶のための登録制度改正に必要な5つのポイント

1 あとを絶たないわいせつ保育士

 2021年3月に千葉地裁松戸支部で勤務先の保育園で園児約10人にわいせつ行為をした保育士に対し懲役6年の判決が言い渡されました。

 また7月には福井地裁で勤務先の保育園で園児2人にわいせつ行為や動画撮影をした保育士に対し懲役2年4か月の判決が言い渡されました。

 拙著の「教育・保育機関におけるハラスメント・いじめ対策の手引―大学・小中高・幼保の現場対応」(新日本法規出版・2021年9月刊)の巻末にこれまでに判例検索に掲載されたわいせつ保育士の判決をまとめていますが、わいせつ保育士の事件はあとを絶ちません。

 このような現状は園児の親を不安にするだけでなく、毎日懸命に働いている保育士にとっても保育士の信用に関わる重大問題であることは間違いありません。

 

2 保育士の採用段階でのチェックができない

 このような犯罪を根絶するためには何よりも未然防止に尽きるのですがそのためには、

①採用段階でのチェック、②勤務状況のチェック、③園児や保護者からの通報、が必要となります。

 このうちの特に①について、採用側に十分な情報がないことがわいせつ保育士を根絶できない大きな原因のひとつにあげられます。

 

3 わいせつ保育士は登録が取り消されても2年経てば再登録できる

 特に再犯率が高いといわれるわいせつ事犯について、現行制度では、過去にわいせつ事件を起こした保育士が保育士登録を取り消されたあとも2年経てば保育士の再登録ができ、保育業務につけることが大きな問題として取り上げられてきました。

 このことを規定している児童福祉法18条の5第4号は次のようになっています。

第18条の5 次の各号のいずれかに該当する者は、保育士となることができない。

 (略)

 第18条の19第1項第2号(注・虚偽又は不正の事実に基づいて登録を受けた場合)又は第2項(注・信用失墜行為と守秘義務違反)の規定により  登録を取り消され、その取消しの日から起算して2年を経過しない者

 

4 過去に懲役刑を受けていた場合も刑の執行後2年経てば再登録できる

 現行制度では、わいせつ事犯に限りませんが、過去に懲役刑など禁錮以上の刑事処罰を受けていたときは、その刑の執行を終わってから2年経てば再登録できることになっています。なお実刑判決ではなく執行猶予判決の場合は猶予期間が過ぎてから2年経てば再登録できることになっています。

 また児童福祉関係の法律で罰金刑を受けたときもその刑の執行を終わってから2年経てば再登録できることになっています。

 

5 厚労省が2021年11月に検討会で示した案

 学校や幼稚園の先生については、現行の制度では、懲戒処分などで教員免許が取り上げられて失効しても3年が経過すれば再免許を受けられることになっていますが、今年6月に公布された「わいせつ教員対策法」では、児童生徒にわいせつ行為などの性暴力を行ったことによって教員免許が失効した者に対しては再免許の授与については厳格な審査手続に基づいてその可否を判断することになりました。

 この法律が制定された今年の通常国会では、教員だけでなく保育士にも、保育士の欠格事由や再登録制度の見直しが必要と言われていましたが、通常国会では改正法は審議されませんでした。

 厚労省は11月4日、省内の検討会のひとつである「地域における保育所・保育士等の在り方に関する検討会」(以下「検討会」といいます)でわいせつ保育士に対する登録取消しや再登録について厚労省としての対応案が示されました。

 なお、わいせつ教員対策法は議員立法でしたが、わいせつ保育士についての議員立法はないのでしょうか。まだその動きは見えません。

 

6 厚労省のわいせつ保育士対応案

 公表されている11月4日の検討会資料(第6回検討会資料1・30頁以下)によれば厚労省の対応案の内容は次のようなものです。

(1)登録禁止期間の延長

現行制度において、保育士の欠格事由における登録禁止期間いついては、禁錮以上の刑に処せられた場合、児童福祉関係の法律で罰金刑に処せられた場合、登録取消による場合など登録禁止期間が一律2年となっているが、教員と同様、

 ・禁錮以上の刑に処せられた場合は期限を設けない(ただし刑の消滅制度の関係から10年で再登録が可能になる)。

 ・それ以外の場合は3年 に見直す。

(2)取消事由の追加

 現行制度において、わいせつ行為を行った保育士については、禁錮以上の刑に処せられた場合などの欠格事由に該当すれば、登録を取り消さなければならないこととされているが、教員と同様、わいせつ行為についても保育士の登録取消事由とする。 

(3)わいせつ行為により保育士の登録を取り消された者の再登録の制限

 教員と同様、わいせつ行為により保育士の登録を取り消された者については、その後の事情により再び保育士の登録を行うのが適当であると認められる場合に限り、再び保育士の登録を行うことができることとする。

 その際、都道府県においては、新たに審査会を設置するか、既存の都道府県児童福祉審議会において、再登録の可否について審査し、その意見を聴いた上で判断することとする。

(4)わいせつ行為により保育士の登録を取り消された者の情報を把握する仕組みの創設

 教員と同様、国においてわいせつ行為により保育士の登録を取り消された者の情報が登録されたデータベースを整備するなど、わいせつ行為を行った保育士の情報を保育士を雇用する者等が把握できるような仕組みを構築することとする。

 

7 わいせつ保育士根絶のための保育士登録制度改正に必要な5つのポイント

 この厚労省の対応案はわいせつ教員対策法の仕組みを保育士にも適用しようとするものですが、方向性としてはすでに通常国会で議論されていたのですから、わいせつ教員対策法と同時に制定されてもよかったといえるでしょう。その意味では遅れてのスタートになっています。

 ただわいせつ教員対策法と同様に、厚労省の対応案は、教育機関や保育機関におけるわいせつ事犯根絶のための制度としてはまだまだ不足していることが多くあります。

 わいせつ保育士根絶のための厚労省の対応案にないもので、保育士登録制度改正に必要なポイントは次の5つです。

 

8 ポイント1・・・被害の声を出しやすくし、被害対応を公正に行う仕組みを作る

 最も重要なことはわいせつ事犯について被害の声を出しやすくする仕組みを作ることです。被害の声が届かなければ、いくら登録の取消や再登録の審査手続を作っても意味がありません。 

 園児や保護者が被害の声を出し、相談し、さらに被害をもみ消さず、被害対応を公正に行う第三者機関のような仕組みが必要です。

 

9 ポイント2・・・都道府県の登録取消のための情報収集の仕組みを作る

 今回の対応案は登録取消について、「わいせつ行為を行ったと認められる場合」を取消事由として加えるというものです。このこと自体はよいとしても問題はこの「わいせつ行為を行った」ことについての情報を都道府県がいかに迅速かつ正確に収集するかにあります。園がわいせつ事犯を把握してもそれを抱え込んでしまい都道府県に通知しなければ登録の取消手続自体ができません。

 都道府県が迅速かつ正確に登録取消のための情報収集ができるような仕組みが必要です。

 

10 ポイント3・・・都道府県の登録取消のための審査の仕組みを作る

 今回の対応案で登録取消について「わいせつ行為を行ったと認められる場合」を取消事由として加えるということですが、教員の場合は、これに対応するのは「懲戒免職等の処分を受けた場合」です。

 懲戒免職等の処分は、事実認定などについて非常に厳格な手続を踏みますので、教員免許を失効させる前提としてその判断をするための手続がすでに実施されているといえます。 

 これに対して今回の対応案は、教員の制度と異なり、懲戒免職等の処分を取消事由としていませんので、都道府県がその保育士がわいせつ行為を行ったかどうかの事実認定とわいせつ行為かどうかという判断をしなければなりません。これは事実認定にしてもわいせつ行為かどうかの判断にしても都道府県にとっては非常に難しいでしょう。

 例えばわいせつ事犯を行った疑いのある保育士が園の調査の前に退職したときは、事実認定が非常に困難になります。その保育士の登録が取り消されず他の園が採用することもありえます。実際にも、愛知県でこの種の事件が起きたことが報道されています(毎日新聞2021年8月24日)。

 このようなことからすると、都道府県が、保育士がわいせつ行為を行ったかどうかについての審査を迅速適正に行う仕組みを作る必要があります。

 

11 ポイント4・・・DBS制度や無犯罪証明制度を導入する

 現状では保育士を採用する際の前歴情報は極めて不足しています。対応案には、教員と同様に、わいせつ行為により保育士の登録が取り消された者の情報が登録されたデータベースの整備を挙げていますが、それに加えて、以前から取り上げられているDBS制度や無犯罪証明制度などが導入されなければ抜本的な解決にはなりません。 

 

12 ポイント5・・・「体罰保育士」や「暴言保育士」についても

 保育所などに子どもを預ける保護者にとっては、わいせつ保育士だけでなく、日常的に子どもに体罰や暴言を繰り返していた保育士についても、採用しないでほしいと思っているでしょう。子どもへの暴力を排除するという意味で、わいせつ保育士だけでなく、「体罰保育士」「暴言保育士」も、児童福祉法18条の19第1項の登録取消事由に加え、また再登録において厳格な審査が必要とすべきではないでしょうか。


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