毎日新聞の2021年4月27日付け朝刊の東京版1面に、「学校死亡事故 詳細調査1割」という記事が出ていました。
学校事故については、文科省が、2016年3月に「学校事故対応に関する指針」(以下指針と言います)を出しています。この指針では、学校死亡事故及び学校設置者が必要と判断した事故については基本調査を実施し、さらに学校設置者が必要と判断した場合には詳細調査を実施することとなっています。
しかし、2016年から5年間で文科省が把握した死亡事故110件のうち、詳細調査が実施されたものはその1割にも満たない8件しかなかったことが報じられています。
指針はネットで見られますが、非常に詳細で、参考資料を含めると48ページにもなるものです。この中で、基本調査の実施については、関係する全教職員からの聴き取りや児童生徒等への聴き取り調査等によって情報を整理し、被害児童生徒等の保護者に説明するとしています。そしてこの説明は、調査着手からできるだけ1週間以内を目安に行うとあります。
この基本調査は、迅速性を主眼においたもので、必要不可欠なものであることは間違いありません。しかしこの基本調査はあくまでも、短期間での調査であり、当然ながら限界があります。そこで詳細調査が必要になります。
指針には、「事実関係を基に、事故に至る過程や原因等を調査するには、詳細調査に移行することが必要であることに留意する」と書かれています。詳細調査の必要性はまさにここに書かれた通りです。詳細調査は時間をかけてその原因等を調べることが目的であり、基本調査とは目的が異なります。
基本調査の対象は、死亡事故及び学校設置者が必要と判断した事故です。これらの事故の重大性からすれば、基本調査の対象となった事故は、原則として詳細調査の対象となるといえるのではないでしょうか。
また指針には、再発防止策の策定・実施として、詳細調査における調査委員会の報告書を活用するとしています。では、詳細調査が実施されないときの再発防止策はどのようにして策定されるのでしょうか。再発防止策を策定・実施するのためにも詳細調査が必要といえるでしょう。
このように学校事故の原因等の究明や再発防止のために必要性の大きい詳細調査がなぜ実施されないのでしょうか。この点について、毎日新聞の記事によると、文科省の担当者は、「詳細調査の実施は学校設置者の判断を尊重したい」とコメントしているだけです。
詳細調査を実施しない原因の究明は非常に重要です。
文科省は、詳細調査が実施されないという実態を踏まえ、これまで把握した110件のうち、詳細調査が実施されなかったものについて、学校設置者に対し、その理由について報告を求めるべきではないでしょうか。今からそれは大変と言われそうですが、事故の重大性からすればやはり原因究明の必要性があると思います。それらの報告を分析し、必要な詳細調査がより多くの事故について実施されるような施策が検討されるべきでしょう。