あ可よろし

「あきらかによきこと」は自分で見つける・おもしろがる
好奇心全開日記(不定期)

走馬灯

2021-07-11 | 本(文庫本)
ほしおさなえさんの『活版印刷三月堂 星たちの栞』を読みました。

店主が亡くなってからしばらく空き家になっていた川越の街の片隅にある「活版印刷三日月堂」。店主の孫娘・弓子が戻って本格的に営業を再開するきっかけとなったのは、三日月堂のオリジナル・レターセットの注文を受けてからだった。注文主は三月堂のレターセットに少女の頃の思い出を重ねるシングルマザーのハルさん。一人息子へのプレゼントをとして選んだものだった。

活版印刷は、今となっては簡単にお目にかかることがなくなってしまった印刷技術。今の印刷技術から考えると、手間暇かかるしデザインも今ほど自由にできるわけでもありません。でも、活字で印刷されたものの「味わい」って言うんですかね、それが全然違うんです。
と言っちゃえる私は、ずっと印刷に関わる仕事をしてきました。仕事を始めたときはすでにオフセット印刷が主流になっていましたが、活版印刷には子どもの頃から馴染みがありました。
その昔、叔父が活版印刷屋を営んでいて、そこに遊びに行くのが好きでした。
床から天井まで部屋いっぱいに並ぶ活字。組版用木箱を片手にピンセットで活字を拾って組んでいく職工さん。この職工さんの仕事ぶりに憧れたのが、私の将来を決めたポイントだったことは間違いないでしょう。
物語中に出てくる「手キン」なんて実際に見たことあるし、それどころかそれで印刷させてもらったこともあるんです。小学生にもなっていない子どもの力ではレバーを押し下げるのは大変だったこととか、インクの臭いとか、ローラーがベチョベチョしていたこととか、読んでいる間にいろんなことが思い出されました。あまりにも思い出すことが多くて、読後に「今から活版印刷の仕事はできないものだろうか?」と考えてしまう始末でした。

仕事を始めてからも印刷技術はくるくる変わってしまい、その変遷を体現してきた者にとって、本当に素敵な物語でした。いろいろなことを思い出させてくれてありがとう。走馬灯のように思い出しすぎて「私、死んじゃうのか?」って考えてしまったくらいでしたけど。
続編もあるようなので読みます。楽しみです。
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