あ可よろし

「あきらかによきこと」は自分で見つける・おもしろがる
好奇心全開日記(不定期)

地球が抱える問題

2024-11-13 | 本(文庫本)
一條次郎さんの『チェレンコフの眠り』を読みました。
待望の文庫4作目。メンタルがちょっとよろしくない状態のときに読み始めたものですから、作品をちゃんと楽しめるかどうか不安ではありましたが、すぐに夢中になってしまいました。一気読みでした。

マフィアのボス、チェレンコフに飼われていたヒョウアザラシのヒョー。彼の誕生日のパーティが開かれた暑い夏の日、武装警官隊に襲撃されてチェレンコフが逝ってしまう。ひとり(一頭?)残されたヒョーは町に出るが、そこは荒廃した世界。放射能汚染や環境破壊……。ヒョーを待ち受けていたのは、それまでの幸せな生活とはまったく逆の、ただただ不条理な現実だった。

冒頭からいきなりドンパチでチェレンコフがやられてしまいます。これでめちゃくちゃハードボイルドな話かと思いきや、次に出てくるのがヒョウアザラシのヒョー。愛らしいつぶらな瞳で、愛する飼い主の最期を見届けます。
ヒョーは、ただのアザラシではありません。ヒョーは喋ります。ヒレを見事に使いこなし、ゆっくりではあるけれど二足歩行(?)もします。ゴルフカートの運転だってします。ヒョーだけでなくオウムガイも喋ります。だって一條作品ですから。そこは当たり前の設定です。驚かないでください。
痛烈な皮肉と核心を突いた内容の会話が随所にちりばめられ、読む人によっては「ふざけてる?」くらいに思っていますかもしれませんが、そこは違いますから。ふざけているように見えるところが大切なこと。核です。そういう風に描くのが一條作品です。
とにかく感心してしまうくらい、海洋汚染や地球温暖化、放射性物質による環境汚染の深刻さをサラリとえぐっています。物語に込められた地球が抱える問題。これはおふざけだけでは描けませんから。

そして読後はかなり切なくなってしまいました。チェレンコフと別れて生きていくしかなくなったヒョーは、その世界で今はどうしているんだろう。泣いてばかりしていないだろうか。
いつの間にかヒョーと自分を重ねてみている私がおりました。

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