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とみしゅう日記

結 その1

 大阪で過ごす、初めての夜。僕はなかなか熟睡できなかった。
 ライブの興奮が冷め切っていない、だけではない。
 Bが自分の枕元に置いていた筆ペンが、僕の神経を過敏に刺激していた。
 奴より先に寝てはいけない。寝たら、描かれる。

 Bは、夜中何度かベッドから離れた。
 トイレやら、水を飲むやら、そういうことだったのだろう。
 だが、僕はそのたびに目を覚ました。

 か弱い動物の代表格、ウサギ。
 常に神経を張りつめているかのように、神経質に辺りを見回している。

 隣で熟睡しているかのように見える二人は、僕にとっては獲物を虎視眈々と狙うトラかライオンである。
 か弱いウサギは、こうして我が身を護るのだ。

 翌朝、8時に起床。
 Bは心底悔しそうな顔をしている。
 見ないふりをして、出かける準備を済ませる。

 むろん、ホテルで朝食なんて食べない。
 朝はうどんと決めていたのだ。

 地下鉄に乗り、大阪港駅で下車。
 時間は9時をちょっと回ったくらい。
 今日の目的地は、大阪随一の水族館である海遊館を含む、天保山一帯。
 海遊館を見て、うどんを食べ、観覧車に乗る。これが我々のプラン。

 だが、水族館もレストランも、10時にならないと開かない。
 仕方なく、辺りをぶらつく。

 マーメイド像を見つけた。
 コペンハーゲンから送られてきたものらしい。
 さっそく奴らの目が輝く。

 像の前で、同じポーズを取らされる僕。
 それをカメラに収める、女二人。
 精神的なSMとは、こういうことを言うのだろうか。
 いいの、あたいは悲しき踊り子なのさ。

 こうして“すんすん”泣いているあいだにも、時計の針は進む。
 山の手線ゲームで時間を潰すが、「3人以上の歌手グループ」というお題に対して、ジャニーズとモー娘。絡みしか返してこないのは、どういうわけか。

 本人たちの名誉のために言っておく。
 この二人、アイドル追っかけというわけではない。
 むしろ、同世代としては真面目な性格ですらある。
 ただし、真面目な人間がいったん道を踏み外すと、とんでもないことになる。
 で、この二人は、今さらとんでもないことに[以下略]

 さて、水族館の前に朝食だ。
 さもないと、マイワシの群れを見て、よだれを垂らしかねない。

 最初に入ったのは、ぶっかけうどんの店。
 味は悪くなかったが、なにせ関東風。
 女性陣二人は、いたく不満だったようだ。

 11時を回り、他のレストランも軒並み営業を始めた。
 それを見切ったかのように、3階に上がる。
 もう1軒あったうどん屋が、そこにあった。
 1時間も空けずに、またうどん。
 そんなバカな、と僕は思う。

 ところが、このうどんが実に美味しかった。
 関西風の薄い色合いのだしに、手打ちのうどん。
 相当ふくれているはずの胃袋に、難なく入っていく。
 昨日のお好み焼きもそうだったのだが、不思議と胃にもたれる感じがしない。
 胃腸に警戒心を持たせないのが、大阪の食文化なのかもしれない。

 ともあれ僕らは大満足だった。
 店に行く前に立ち寄ったトトロショップで、新しいストラップを見つけたBは、それ以上に満足だったに違いない。
 Aは、「なんでやねん!」Tシャツを買うか買うまいか、さんざん悩んでいた。
 小学校教師である彼女は、生徒といかにして触れ合うか、常に腐心している。土産物を選ぶ時も、同じ心情のようだ。

 そういう心優しき女性二人が合わさると、どうしてああも邪悪なことが[以下略]

 さて、海遊館である。
 館内は、とにかく超満員。
 ヨンジュとベッカムが入っているのかと思うくらい、アクリル製の水槽の前には人だかりができている。
 視界の端にちらっと水棲動物を目に収めて、さっさと次に向かう。
 しまいには、彼女たちとはぐれてしまった。まぁ、この人混みだ。やむを得まい。

 なかば駆け足で、各水槽を眺めていく。
 海遊館の売りの一つである巨大水槽には、ジンベイザメを始めとするたくさんの魚&哺乳動物が泳いでいた。
 ただ、水槽の底にへばりついて動かない怠け者もいるわけで、こういう輩を見ると何だか安心する。

 話はそれるが、イルカという動物は確実に自分のキャラを判っていると思う。つまり、彼らは総じてサービス熱心なのだ。水槽の端から端までを華麗に泳いで、観客たちを楽しませる。
 それに対して、ペンギンは実にやる気がない。全員でじっと立ちつくしたまま、あらぬ方向を全員で見つめていたりする。かと思うと、子どもが振り回す色つきの傘に過敏に反応して、いいように振り回されていたりもする。
 でもって、僕はそんなペンギンが大好きだ。

 出口で二人と合流し、観覧車へと向かう。ちょっと風が強い。
 天保山の観覧車は、世界最大“級”とのこと。“級”がいい感じ。
 こういう「どうとでも取れる逃げ口上」的なフレーズは、実に日本的で素晴らしい。

 観覧車内で、何枚か写真を撮る。今回載せたのも、そのうちの1枚。
 プライバシー保護のため、顔は隠させてもらった。
 本人たちが美女と言い張っているので、美女の顔を想像して当てはめてみてほしい。

 新幹線の時間まで、あまり余裕はないが、それでも我々にはまだ成すべきことがある。
<つづく>
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