カモ汁 (大分県の昔話「吉四六さん」・福娘童話集)
むかしむかし、吉ちょむ四六さんと言う、とてもゆかいな人がいました。
ある時、庄屋さんが吉四六さんのところへ使いを寄こしました。
「カモをたくさん取ったので、今夜カモ汁をごちそうするから来るように」
(ほう。あのけちん坊の庄屋さんがカモ汁をごちそうするなんて、珍しい事もあるものだ。よほど、たくさんのカモを取ったに違いない。それともまた、骨董の自慢かな?)
吉四六さんは思いきり食べてやろうと思って、昼ご飯も夕ご飯も食べないで庄屋さんのところへ出かけました。
「おう、よく来てくれたな」
庄屋さんは吉四六さんを部屋にあげると、カモを取った時の自慢話をうんと長くしてからカモ汁を出しました。
(やれやれ、やっと食べられる。・・・おや)
ところがおわんのふたを取ってみると、中に入っているのはダイコンばかりで、カモの肉は見つかりません。
「どうだね、カモ汁の味は。よかったら、どんどんおかわりしてくれ」
吉四六さんがおかわりをしても、やっぱりダイコンばっかりです。
(ふん、何がカモ汁だ。これはダイコン汁同じゃないか)
吉四六さんは腹を立てましたが、そこは我慢して、
「とてもおいしいカモ汁でした。おかげさまで、お腹がいっぱいになりました」
と、お礼を言って帰りました。
それを見て庄屋さんは、腹をかかえて笑いました。
「さすがの吉四六さんも、とんだカモ汁をくわされたもんだ」
それから二、三日たったある日、吉四六さんがあわてて庄屋さんの家へ駆け込んで来ました。
「庄屋さん、早く来て下さい! おらの畑に今、カモがどっさりとまっています」
「よし、すぐ行く!」
庄屋さんは鉄砲を肩にかけ、吉四六さんのあとから走っていきました。
でも畑には、カモなんか一羽もいません。
「カモなんか、どこにもいないじゃないか。わしをだますと承知しないぞ」
庄屋さんはすっかり腹を立て、吉四六さんに鉄砲を向けました。
でも、吉四六さんはビクともしません。
「おや? あんなにたくさんいるのが、見えませんか?」
言われて吉四六さんの指差す方を見ると、一本の木にダイコンが何本もぶらさげてあります。
「馬鹿者! あれはダイコンじゃないか!」
「とんでもない。あれはこの前、庄屋さんの家でごちそうになったカモですよ」
「むっ、むむ・・・」
さすがの庄屋さんも、これには言い返す言葉がありませんでした。(おしまい)
※ これは、マガモの呼び名「青首」と大根の「あおくび」をかけたお話です。
二羽のカモ (京都府の民話・福娘童話集)
むかしむかし、京都に一人の男が住んでいました。
男の家は貧乏でしたが、お嫁さんと二人で仲良く暮らしていました。
ある日の事、お嫁さんに赤ちゃんが生まれました。ところがお嫁さんはお産のために体が弱っていたので、あまりお乳が出ません。そこでお嫁さんはお肉を食べて力を付けようと思い、夫に頼みました。
「わたし、お肉を食べたいのですけれど・・・」
それを聞いて男は、
「それは、もっともだ。肉を食べて、はやく元気になってもらわないとな。お前のためにも、赤ん坊のためにも」
と、言いましたが、しかし男は貧乏で、お肉を買うお金がありません。男はいろいろと考えたあげく、
「よし、そうだ。自分で鳥を取りにいこう」と、言いました。
次の日、男は朝早く起きると、弓矢を持って家を出ました。
そして、ミミドロ池という池にやって来ました。この池にはあまり人が来ないので、きっと水鳥がたくさんいると思ったのです。
男は池まで来ると岸に生えた草の中に身をかくして、じっと水の上を見つめていました。すると一羽のカモが、草むらのかげから泳いで来ました。続いてもう一羽がやって来て、二羽のカモは仲良くこちらに近づいてきます。それは、メスとオスのカモでした。
男はそっと、弓に矢をつがえましたが、
(夫婦だろうか? 仲の良いカモを殺すなんて、かわいそうだ)
と、思い弓と矢を置きました。しかし男は、また思い直しました。
お肉を食べたがっている、お嫁さんの事を思ったからです。
(仕方ない。カモよ、許しておくれ)
男が矢を放つと、矢は真っ直ぐにオスのカモに当たりました。
「それ、当たったぞ!」
男は大急ぎで池に入って獲物を拾い上げると、すぐに家へ帰りました。男はさっそく、お嫁さんにカモの取れた事を話しました。
そして、
「あすの朝は、カモを料理して食べような」と言うと、カモをさおにかけて寝ました。
さて、その夜中の事です。
男は、カモがバタバタと羽を動かしている音に目を覚ましました。
「おや? あのカモが、生きかえったのかな?」
男が不思議に思いながら、あかりを持ってさおのところに行きました。すると昼に取ってきたカモは死んだままで、そのそばを一羽のカモがバタバタと羽ばたいているではありませんか。
「あっ! メスのカモだ。ミミドロ池でオスとならんで泳いでいた、あのメスガモに違いない。
殺されたオスをしたって、あとをつけてきたのか」
男はメスのカモを、じっと見つめました。
カモはあかりを持った人間がそばに立っているのに少しも恐れる様子はなく、死んだオスのまわりを離れようとはしません。男はつい、ポロリと涙をこぼしました。
すると、外の音に起き出したお嫁さんもやって来ました。
お嫁さんは男の隣でじっとカモを見つめると、男に言いました。
「カモも人間も、相手を想う気持ちは一緒なのですね。ねえ、明日あのカモのお墓を作ってあげましょう」
「しかし、カモを食べないとお前の体は・・・」
「いいえ。わたしは病気ではありません。日がたてば、また元気になれますから」
その朝、男はオスガモを持って、また池にやって来ました。そして、ていねいにうずめてやると、小さなお墓を作ってやりました。
それからしばらくたつと、お嫁さんはすっかり元気になりました。
そして赤ちゃんと三人で、しあわせに暮らしたという事です。(おしまい)
むかしむかし、吉ちょむ四六さんと言う、とてもゆかいな人がいました。
ある時、庄屋さんが吉四六さんのところへ使いを寄こしました。
「カモをたくさん取ったので、今夜カモ汁をごちそうするから来るように」
(ほう。あのけちん坊の庄屋さんがカモ汁をごちそうするなんて、珍しい事もあるものだ。よほど、たくさんのカモを取ったに違いない。それともまた、骨董の自慢かな?)
吉四六さんは思いきり食べてやろうと思って、昼ご飯も夕ご飯も食べないで庄屋さんのところへ出かけました。
「おう、よく来てくれたな」
庄屋さんは吉四六さんを部屋にあげると、カモを取った時の自慢話をうんと長くしてからカモ汁を出しました。
(やれやれ、やっと食べられる。・・・おや)
ところがおわんのふたを取ってみると、中に入っているのはダイコンばかりで、カモの肉は見つかりません。
「どうだね、カモ汁の味は。よかったら、どんどんおかわりしてくれ」
吉四六さんがおかわりをしても、やっぱりダイコンばっかりです。
(ふん、何がカモ汁だ。これはダイコン汁同じゃないか)
吉四六さんは腹を立てましたが、そこは我慢して、
「とてもおいしいカモ汁でした。おかげさまで、お腹がいっぱいになりました」
と、お礼を言って帰りました。
それを見て庄屋さんは、腹をかかえて笑いました。
「さすがの吉四六さんも、とんだカモ汁をくわされたもんだ」
それから二、三日たったある日、吉四六さんがあわてて庄屋さんの家へ駆け込んで来ました。
「庄屋さん、早く来て下さい! おらの畑に今、カモがどっさりとまっています」
「よし、すぐ行く!」
庄屋さんは鉄砲を肩にかけ、吉四六さんのあとから走っていきました。
でも畑には、カモなんか一羽もいません。
「カモなんか、どこにもいないじゃないか。わしをだますと承知しないぞ」
庄屋さんはすっかり腹を立て、吉四六さんに鉄砲を向けました。
でも、吉四六さんはビクともしません。
「おや? あんなにたくさんいるのが、見えませんか?」
言われて吉四六さんの指差す方を見ると、一本の木にダイコンが何本もぶらさげてあります。
「馬鹿者! あれはダイコンじゃないか!」
「とんでもない。あれはこの前、庄屋さんの家でごちそうになったカモですよ」
「むっ、むむ・・・」
さすがの庄屋さんも、これには言い返す言葉がありませんでした。(おしまい)
※ これは、マガモの呼び名「青首」と大根の「あおくび」をかけたお話です。
二羽のカモ (京都府の民話・福娘童話集)
むかしむかし、京都に一人の男が住んでいました。
男の家は貧乏でしたが、お嫁さんと二人で仲良く暮らしていました。
ある日の事、お嫁さんに赤ちゃんが生まれました。ところがお嫁さんはお産のために体が弱っていたので、あまりお乳が出ません。そこでお嫁さんはお肉を食べて力を付けようと思い、夫に頼みました。
「わたし、お肉を食べたいのですけれど・・・」
それを聞いて男は、
「それは、もっともだ。肉を食べて、はやく元気になってもらわないとな。お前のためにも、赤ん坊のためにも」
と、言いましたが、しかし男は貧乏で、お肉を買うお金がありません。男はいろいろと考えたあげく、
「よし、そうだ。自分で鳥を取りにいこう」と、言いました。
次の日、男は朝早く起きると、弓矢を持って家を出ました。
そして、ミミドロ池という池にやって来ました。この池にはあまり人が来ないので、きっと水鳥がたくさんいると思ったのです。
男は池まで来ると岸に生えた草の中に身をかくして、じっと水の上を見つめていました。すると一羽のカモが、草むらのかげから泳いで来ました。続いてもう一羽がやって来て、二羽のカモは仲良くこちらに近づいてきます。それは、メスとオスのカモでした。
男はそっと、弓に矢をつがえましたが、
(夫婦だろうか? 仲の良いカモを殺すなんて、かわいそうだ)
と、思い弓と矢を置きました。しかし男は、また思い直しました。
お肉を食べたがっている、お嫁さんの事を思ったからです。
(仕方ない。カモよ、許しておくれ)
男が矢を放つと、矢は真っ直ぐにオスのカモに当たりました。
「それ、当たったぞ!」
男は大急ぎで池に入って獲物を拾い上げると、すぐに家へ帰りました。男はさっそく、お嫁さんにカモの取れた事を話しました。
そして、
「あすの朝は、カモを料理して食べような」と言うと、カモをさおにかけて寝ました。
さて、その夜中の事です。
男は、カモがバタバタと羽を動かしている音に目を覚ましました。
「おや? あのカモが、生きかえったのかな?」
男が不思議に思いながら、あかりを持ってさおのところに行きました。すると昼に取ってきたカモは死んだままで、そのそばを一羽のカモがバタバタと羽ばたいているではありませんか。
「あっ! メスのカモだ。ミミドロ池でオスとならんで泳いでいた、あのメスガモに違いない。
殺されたオスをしたって、あとをつけてきたのか」
男はメスのカモを、じっと見つめました。
カモはあかりを持った人間がそばに立っているのに少しも恐れる様子はなく、死んだオスのまわりを離れようとはしません。男はつい、ポロリと涙をこぼしました。
すると、外の音に起き出したお嫁さんもやって来ました。
お嫁さんは男の隣でじっとカモを見つめると、男に言いました。
「カモも人間も、相手を想う気持ちは一緒なのですね。ねえ、明日あのカモのお墓を作ってあげましょう」
「しかし、カモを食べないとお前の体は・・・」
「いいえ。わたしは病気ではありません。日がたてば、また元気になれますから」
その朝、男はオスガモを持って、また池にやって来ました。そして、ていねいにうずめてやると、小さなお墓を作ってやりました。
それからしばらくたつと、お嫁さんはすっかり元気になりました。
そして赤ちゃんと三人で、しあわせに暮らしたという事です。(おしまい)
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