野鳥にまつわるお話

野鳥に関するいろいろな情報を個人的に調べ、掲載しています。

ウグイスの民話(日本のむかし話2話・山形県)

2017年09月17日 | 野鳥
ウグイスのほけきょう

 むかし、むかし、あるところに、わかいお百姓がありました。秋になって、稲のとりいれもすみましたので、江戸へでて、ひとかせぎしてこようとおもい、村をでてきました。三国峠という大きな峠にかかったとき、秋の日が、もう西へかたむき、峠のなかほどのお堂のまえにくると、すっかり、日がくれてしまいました。
「これはこまったことだ。これでは、とても、この大きな峠はこせない。」
と、とほうにくれておりますと、むこうの山に、かすかなあかりがひとつ、星のようにみえてきました。
 やれうれしやと、そのあかりをめあてに、ひとつの山をこえていきますと、なんとふしぎなことに、この山のなかには、めずらしい、りっぱな家がたっていました。トントン、トントンと、戸をたたいて、お百姓は声をかけました。
「もしもし、道にいきくれて、なんぎをしておる者でございます。どんなところでもよろしゅうございますから、今晩ひと晩、とめてくださいませんか。」
 すると、なかから、うつくしい女の人がでてきて、
「それは、さぞ、おこまりのことでございましょう。むさくるしいところではございますが、さあ、おあがりになって、えんりょなくおとまりください。」
 こんなに、しんせつにいってくれました。お百姓は、おおよろこびして、
「それでは。」
といって、上にあがり、とめてもらうことになりましたが、そのとおされたへやが、とてもりっぱなへやで、しかも、晩ごはんにといってだされたおぜんが、山のなかには、めずらしいごちそうばかりです。すっかり感心していると、女の人がでてきました。
「おまえさんは、これから、どこへいきなさるのですか。」
「はい、お江戸で、ひとかせぎしたいとおもいまして。」
すると、女の人が、
「ひとかせぎというのでしたら、わたしの、この家で、かせいでみたらどうですか。しごとといっても、るす番をするだけのことですが。」
と、いいました。そこで、お百姓は、どこでかせぐのもおなじこととおもいましたので、
「それでは、ひとつ、そう、おねがいいたします。」
と、その家ではたらくことになりました。
 さて、あくる朝のことです。女に人は、お百姓に馬の用意をさせて、馬にのってでていきました。そこには、うまやがあって、りっぱな馬が飼ってあったのです。ところが、でていくときになって、女の人がいいました。
「おなかがすいたら、おまえさんのたべたいとおもうものが、戸だなのなかにはいっていますからね、かってに、いくらでもたべてください。しかし、四つある倉のうち、いちばんおしまいの倉の戸だけは、けっして、あけてはいけませんよ。いいですか。」
「はい、いちばんしまいの倉は、けっして、あけはいたしません。」
 お百姓が、そういいますと、女の人はうれしそうに、にこにこして、でていったそうであります。ところが、昼ごろになって、お百姓は、おなかがすいてきましたので、
「ご主人は、戸だなのなかに、おまえさんのたべたいとおもうものが、はいっているからといわれたんだが、おれは、いま、おさとうのはいっている、あまい、おだんごをたべたいんだが─」
 そうおもいながら、戸だなの戸を、そっとあけてみました。と、おやおや、おどろかないではおれませんでした。だって、ちゃんと、そこに大きなさらがあって、できたての、ゆげのホヤホヤたっているキビだんごが、山もりおいてあったのです。
「すみません、すみません。ごちそうでございます。」
 お百姓は、まるで、そこに女の人でもいるように、お礼をいって、おだんごの大ざらをおしいただいて、戸だなからとりだしました。そして、このおいしい、あまいおだんごを、たらふくごちそうになりました。
 で、それからは、まい日、女主人がのっていく馬の用意をするばかりで、あとは、戸だなから、おいしいごちそうをとりだしてたべて、倉のなかなど、ひとつもみようとせず、忠実にるす番をいたしました。女主人は、朝でていって、晩になると、きまってかえってきました。まい日、すこしのかわりもなく、そうして、一年ばかりの月日がたちました。そこで、ある日のこと、お百姓が、女主人にいいました。
「これは、ながいあいだ、ごやっかいになりました。家のほうも心配になりますので、このへんで、おひまをいただきとうぞんじますが。」
 そうすると、女の人が、
「そうですか、いままで、なんともよくるす番をしてくれて、のこりおしゅうはおもうけれど、家が心配といえば、しかたがない。では、これは、ほんのお礼のしるしばかり。」
 そういって、お金のつつみと、白木綿を一反くれました。お百姓は、お礼をいって峠をくだり、国へかえってきました。家へつくと、いままでの話をして、おかみさんに白木綿をみせ、それから、お金のつつみをひらきました。ところが、ふしぎなことに、そこには、へんな形をした一文銭が、一枚はいっているきりでした。一文銭というのをしっていますか。それが十枚で一銭になるというお金で、むかしはあったのですが、いまはありません。とにかく、お金のなかでも、いちばんやすいお金です。ですから、お百姓は、びっくりしたり、ふしぎにおもったりしたのです。
 で、おかみさんに、
「どうしたというのだろう。おれは、一年も、まめにはたらいてきたんだよ。そのお礼に、一文ということは、どうも、あたりまえとはおもわれない。」
 そういってみましたが、おかみさんも、なんということもできません。それで、この一文銭をもって、庄屋さんに相談にいきました。庄屋さんというのは、むかしの村長さんです。庄屋さんは、その一文銭をみると、あっと、びっくりしていいました。
「いや、これはおどろいた。これは、ウグイスの一文銭といってね、この世にめずらしい宝物なんだよ。おまえさんが、一年や二年はたらいたって、とても、さずかるものではない。もし、かまわないなら、このおれに、千両で売ってくれないか。」
 これをきくと、お百姓は、またもや、おどろくやら、よろこぶやら、そして、庄屋さんにいいました。
「そうですか、ありがとうぞんじました。では、庄屋さん、どうか、千両でお買いください。」
 で、お百姓は、いちどに、たいへんにお金持ちとなりました。ところが、そのお百姓のおとなりに、よくばりのおやじがひとり、住んでおりました。これをきくと、おれもひとつ、その一文銭をもうけてこようと、三国峠をさしてでかけました。そして、このうつくしい女の人のいる一軒家をさがし、そこで、はたらかせてもらうことになりました。朝になると、女の人は、やはり、馬にのってでかけました。でかけるとき、お百姓にいったように、
「たべたいものは、戸だなのなかにありますよ。それから、四つの倉のうち、三つまではあけてよいが、おしまいの四つめの倉は、けっして、あけてはなりません。いいですか。」
 そう念をおして、でていきました。
 ところが、なにぶん、よくばりのおやじさんですから、戸だなのなかから、いろいろのごちそうを、おもうぞんぶんとりだしてたべましたが、それでも満足せず、倉のほうに、なにか、いい宝物でもありはしないかとかんがえました。それで、みてもいいといわれた、第一の倉をあけてみました。すると、そこには、べつに、なんという宝物はありませんでしたが、なかには、じつにいい、けしきがはいっていました。夏らしく、海には、波がたっていて、上を白いカモメがとんでいました。おやじさんは、これではつまらないと、つぎの倉をのぞいてみました。と、これも、けしきで、一本のカキの木があり、これに、赤いカキの実が、たくさんなっていました。そして、まわりにキクの花がさき、空に、ガンが、かぎになってとんでいました。
なあーんだ、これもつまらないというので、また、つぎの倉をひらきました。すると、これも、けしきで、ここには、雪がふっていて、雪の上を、ウサギなどがはねていました。これもつまらないというので、いよいよ、四つめの倉のまえに立ちました。ところが、これは、女の人が、けっして、あけてくれるなといった倉でした。だから、おやじさん、ちょっと、かんがえたのですけれども、あけてくれるな、といったところをみると、きっと、このなかにこそ、ほんとうの宝物が、どっさり、はいっているのにちがいない、そうかんがえ、あけたくてたまらなくなりました。で、ちょっとだけなら、わかりゃすまい、そうかんがえて、倉の戸を、ちょっとあけて、なかをのぞきました。
ところが、どうでしょう。そこには、一本のウメの木があって、花がうつくしくさいております。そして、その枝に、一羽のウグイスがとまっていて、ホウ、ホケキョウ、ホウ、ホケキョウと、うつくしい声で鳴いていました。で、おやじさんは、がっかりして、こんなものをみるなといったのは、いったい、どうしたことなんだろうと、また、倉の戸をしめようとしますと、はっと、この倉も、それから、そこにあった家も、なにもかも、いちどになくなって、じぶんも、さみしい山のなかに立っていました。
「おやおや、おや。」
と、びっくりして、夢でもみたのかと、あたりをみまわしました。と、そばで、女主人の声がしました。
「おまえさんは、なんと、たいへんなことをしてくれたんだ。四つめの倉は、あれほど、あけてくれるなとたのんでおいたではないか。わたしは、じつをいえば、千年の年をかさねたウグイスなんです。千年のあいだに、山、谷をめぐって、まい日まい日、ほけきょうという、とうといお経を読みためてきて、それを、あの倉のなかにしまってあった。それが、おまえのおかげで、みんな外にでて、どことなくきえていってしまった。ざんねんだがしかたがない。そのかわり、おまえさんのかえり道も、かいもく、わからなくなってしまったよ。」
 おやじさんは、おどろいて、身のまわりをみまわしたが、まったく、どこを、どういって家へかえっていいのか、さっぱりわからない山のなかでありました。

【新版『日本のむかし話 5』 坪田譲治 偕成社文庫】


ウグイスの宿 (山形県のむかし話)

 むかし、若いおしょうさんが、
「この世のどこかに、ありがたいお経の本がないものか。」
と、あっちこっちさがしてあるいて、旅をしていた。
 ある春のこと。
 まだあちこちに雪がのこっている山の中で、日がくれてしまった。
「ああ、さむい。どこかとまるところがないものか。」
と見わたすと、むこうのほうに、ちらちらと、小さいあかりが見えた。
「これは、ほとけさまのおたすけにちがいない。ありがたい、ありがたい。」
と、いそいで行ってみると、一軒家に、むすめがひとりすんでおった。
 さむさにふるえているおしょうさんを見て、むすめはひと晩とめてくれることになった。
 あくる朝、そのむすめが、
「おしょうさま、おたのみがございます。。わたしはこれから、ちょっとでかけたいので、どうか一日、るすばんをしていただけませんか。たべものは、こまらないようにしておきますから。」
というので、おしょうさんは、
「はい、いいですよ。いそぐ旅ではありませんから。」
と、るすばんをひきうけてやった。
 するとむすめは、
「るすばんはたいくつでしょうから、うしろの庭にある十二の倉に、じゅんじゅんにはいって、あそんでいってください。それでも、十二番目の倉だけは、けっして見ないでくださいよ。まだなにもいれていませんから。」
というて、でかけていった。
 おしょうさんはひとりになると、たいくつなので、さいしょの倉をあけて見た。
「あれ、これは。」
 なんとそこには、にぎやかな町があって、ちょうどお正月のけしきだった。
 店では初売りで、大ぜいの人が買いものをしておったが、おしょうさんを見つけた人たちは、
「わたしの家で、お酒をのんでおくれ。」
とひっぱって、お酒をごちそうしてくれた。
 つぎの倉は二月だった。
 おいなりさまのおまつりで、赤い旗がひらひら、たいこがてんてん。
「ここははつうま初午(二月になって最初の午の日に行なわれるいなり神社のまつり)か。こんなににぎやかなおまつりでは、ことしもお米がたんととれるぞ。」
と、ながめながら、つぎの倉にはいったら、そこは三月のお節句だった。
 モモの花がさいて、とってもいいお天気。女の子たちは、きれいな着物をきて、おひなさまの前で、白酒をのんでおった。おしょうさんも白酒をよばれた。
 つぎの倉は四月。倉の中はサクラの花ざかり。村の人たちは花見酒にようて、歌をうたって、うかれておった。
 おしょうさんも、いっしょにおどった。
 つぎの倉は五月。
 馬を使って田の土をこねたり、ならしたり、おとなも子どもも、大ぜいで田植えをしておった。おしょうさんは、
「わしだけあそんでいて、はずかしい。」
と、つぎの倉にはいっていった。
 ここは六月。
 カイコのクワ取りや、田の草取りで、ここもお百姓たちが、いそがしがっているので、いそいでつぎの倉に。
 そこは七月で、子どもたちは七夕さまの星まつりをしたり、お盆で、ほとけさまのむかえ火をたいたりしていたから、おしょうさんは、お経を読んで家々をまわり、はらいっぱいごちそうになった。
 つぎの倉は八月。子どもたちは、お月様におそなえをして、おがんでおった。
 あまりいいお月夜なので、おしょうさんも、おそなえの前にすわりこみ、子どもたちといっしょに、お月見しておった。
「こんなにしてあそんでいるうちに、すっかり秋になってしまうぞ。」
 おしょうさんは、いそいでつぎの倉にはいってみると、そこは九月。どこの村もイネかりで、男の人も女の人も、お年寄りまでいそがしそうだった。
「はやくかりあげて、秋まつりしような。」
 みんながせっせとはたらいているので、おしょうさんは、じゃまをしてはすまないと、つぎの倉にいった。
 ここは十月で、にぎやかな秋まつり。
「わっしょい、わっしょい。」
 あっちの町でも、こっちの村でも、子どもたちが元気よく、おみこしをかついでおった。
 のぼりの旗が、まっさおにすんだ秋の風にはためき、その下を、赤トンボが、すいすい飛んでおった。
 秋まつりがすめば、もう冬がやってくる。
 つぎの倉は、冬のじゅんびだった。
 ダイコンをのき下にさげたり、雪の多いところでは、雪がこいをしていたし、だれもかれも、ながい冬ごもりのしたくで、いそがしがっていた。
 山の方に、もうぽつぽつ、雪がふりだしていたから、十一月だ。
「とうとう、冬になってしまったか。」
 おしょうさんは、つぎの倉にはいってみようと手をかけた。
「あ、ここはおわりの倉か。おわりの倉だけは、けっして見るなって、いわれたっけなあ。」
 おしょうさんは、あわてて手をひっこめた。
「でも、どうしてこの倉だけは、見ちゃならんのかなあ。」
 おしょうさんは、ふしぎでならん。
「見てはならんというておったが、どうしてかな。ひょっとすると、ほかよりもっとおもしろい倉かもしれん。」
 おしょうさんは、見たくてしょうがなくなった。そして、すこし戸をあけてみた。
「ありゃ、これは……。」
 倉の中から、どおっと、なだれのように、ふぶきがおしよせてきて、おしょうさんは、雪の中にうずまってしまった。
 そこへ、宿をかしてくれたむすめが出てきて、
「おしょうさま、ここだけは、けっして見るなって、あれほど言ったのに。わたしはもうすこしすると、『ウグイスのまき』というお経をかきあげて、こまっている人をすくうことができたのに、ああ、なんとくやしいこと。いままで、なんぎして書きためたお経が、みな、ふぶきに飛ばされてしまいました。」
と、しくしく泣きだした。
 おしょうさんは、なんと言ったらよいか、おろおろしていたが、そのうち、むすめも倉も家も、ぼおっと消えて、かわいらしい小さなウグイスが、
「ホウ、ホケキョ。」
と、ひと声鳴いて、空高く飛んでいってしまったそうな。
 おしょうさんは、林の中に、いつまでもぼんやりと立っておったと。
〔再話・佐藤義則〕
【『ふるさとの民話 4 山形県』 日本児童文学者協会編 偕成社】

見るなの部屋 (日本の昔話より)

 むかしむかし、あるところに、一軒のお茶屋がありました。
 そのお茶屋に、ある日からきれいな娘が、毎朝のようにお茶を買いに来ます。
「この辺りでは見かけない娘だが、どこから来るのだろう?」
 ある日、不思議に思った番頭が、こっそりと娘の後をつけてみました。
 すると娘は村を通り抜けて、どんどん林の中へと進んで行きます。
「こんな所に、人の住む家はないはずだ。・・・こいつは怪しいぞ」
 ところがしばらく歩いていくと、目の前に見事な御殿がたっているではありませんか。
「こいつは驚いた。こんな所にこんな立派な屋敷が」
 番頭が御殿に見とれているすきに、娘の姿が消えてしまいました。
「はて、どこへ行ったのだろう? 中に入ったのかな」
 番頭は思いきって門を開けると、庭に入っていきました。
 すると広い座敷にあの娘が座っていて、一人でお茶を飲んでいたのです。
 番頭に気づいた娘は、にっこり笑って言いました。
「番頭さん、よくおいでになりました。さあどうぞ、おあがりください」
「いや、その。・・・それでは失礼して」
 今さら逃げ出すわけにはいきません。
 番頭は娘にすすめられるまま、座敷にあがりました。
「いつも、おいしいお茶をありがとう。今日は、ゆっくりしていって下さいな」
 娘は、お茶と一緒にお菓子やお餅を出しました。
「どうぞ、召しあがれ」
 見れば見るほどきれいな娘で、こんな娘が、どうしてこんな所にいるのか不思議でなりません。
「番頭さん。せっかくおいでになったのに、申しわけありませんが、どうしても出かけなくてはなりません。よかったらわたしが戻るまで、ここで待っていてもらえませんか?」
 それを聞くと、番頭は店の事も忘れて言いました。
「どうぞ、どうぞ。わたしが留守番をしていますから、遠慮なく」
「それでは、ゆっくりしていってください。ただし、お願いがあります。どんな事があっても、この部屋以外は、のぞかないようにしてほしいのです」
「わかりました。よそさまの家を勝手に歩きまわる様な事はいたしません」
「ありがとう」
 娘はうなずくと、一人で御殿を出て行きました。
 番頭はしばらくの間、庭を見たり座敷で寝そべったりしていましたが、退屈なので他の部屋をのぞきたくなりました。
 それに、『のぞくな』と言われたら、よけいのぞきたくなるのが人間です。
「少しぐらいなら、いいだろう」
 そこでまず、番頭は隣の部屋を開けて見ました。
 するとそこは何とお正月の部屋で、床の間には松竹梅をかざり、鏡餅やお正月のお供え物が供えてあるのです。
 しかも驚いた事に、赤い着物を着た子どもが輪になって甘酒を飲んでいました。
 しかも子どもたちは、だれも番頭に気づきません。
「はて、わしの姿が見えないのだろうか?」
 番頭は不思議に思いながらも、次の部屋を開けてみました。
 そこは二月の部屋で、赤い鳥居が並んでいます。
 どこから現れるのか、初午参りの人が次々とやって来ます。
 それに色々な店も出ていて、とても賑やかです。
 その次は三月の部屋で、ひな人形がきれいに飾ってあって、ぼんぼりの明かりがゆれています。
 次は四月の部屋で、花御堂があって、お釈迦さまが立っています。
 もちろん、甘茶も用意してあります。
 次は五月の部屋で、部屋中に鯉のぼりがあって、正面にはよろいかぶとの武者人形が座っています。
 おいしそうなちまきやかしわ餅も、たくさん置いてあります。
 次は六月の部屋で、子どもの歯が丈夫になりますようにと、頭にはちまきをした人たちが、歯がための餅を作っています。
 次は七月の部屋で、短冊をつけた笹竹の前では、ゆかたを着た子どもたちが七夕の唄を歌っています。
 次は八月の部屋で、すすきや秋の七草がかざってあり、三宝には、お月見団子が積んであります。
 その横では、里芋を食べながら酒を飲んでいる人もいます。
 次は九月の部屋で、見渡す限り稲田で、お百姓たちが忙しそうに稲を刈っています。
 次は十月の部屋で、遠くに見える山々の色づいた葉が、ひらひらと風に舞っています。
 次は十一月の部屋で、白い雪がちらちらと降っていて、鮭なべを囲んだ人たちが、美味しそうに鮭なべを食べています。
 次は十二月の部屋で、どの家でも餅つきの真っ最中です。
 子どもたちは、こたつに集まって、おばあさんのむかし話を聞いています。
「ああ、わしのばあさんも、達者でいるだろうか」
 番頭が、思わずしんみりとなりました。
 するとふいに、
 ♪ホーホケキョ。
と、うぐいすが鳴きました。
 はっとしてあたりを見たら、そこは御殿どころか、何もない深い山の中でした。

 その後、番頭は何度も山にやってきましたが、ついにあの娘の御殿を見つける事が出来ず、あの娘は二度とお茶屋に姿を見せなくなったという事です。 おしまい

お嫁さんになれなかったウグイス(静岡県の民話)

 むかしむかし、とても美しい娘さんが、毎日のように村へやってきました。どこから何をしにくるのか、だれもわかりません。でも、今まで見たこともないくらい、美しい娘さんです。
「なんてきれいな娘だ。あの娘の婿になりたいな」
 村の男たちは、みんなうっとりして娘さんを見つめました。
 そして一人の男が、
「おら、何としても、娘の婿になってやるぞ!」
と、ある日、娘さんのあとをつけていったのです。
 そうとは知らない娘さんは、村を出るとどんどん山の方へ行きます。
(はて、どこまで行くのやら?)
 男が不思議に思いながらもついていくと、山の中に立派な屋敷があり、娘さんはその中へ入っていきました。男も急いで、屋敷に飛び込みました。
(おや、だれもいないのかな?)
 男がキョロキョロしていると、さっきの娘さんが出てきていいました。
「何か、ご用ですか?」
「頼む! 何でもいう事を聞くから、おらをあんたの婿にしてくれ!」
 すると娘さんは、にっこり笑って言いました。
「わたしは、この屋敷に一人で住んでいます。もし、婿になりたかったら、三年の間、わたしのいるところを見ないで働いてください」
「わかった、約束する」
 男は喜んで、さっそくこの屋敷で働くことにしました。
 でも娘さんは、奥の部屋にこもったきり二度と姿を見せません。まきをわったり、水をくんだりと、男は毎日一生懸命働きましたが、さみしくてたまりません。それでもがまんして、がんばりました。そしていよいよ、あと六十日ほどで三年になるという時、男はどうしても娘さんを見たくなりました。
(たったひと目、ひと目だけなら大丈夫だろう)
 男は、こっそり娘さんのいる奥の部屋に行きました。
 部屋の前に立つと、中から静かにお経を読む娘さんの声が聞こえてきます。
(お経か? どうしてお経なんか読むのかな? まあいい)
 男はどきどきしながら、ふすまを少し開けて、そっと中をのぞいてみました。
 すると、娘さんは大きな三方の上にすわって、一心にお経を読んでいました。三方というのは、おもちやおそなえものをのせる台です。
 部屋の中だというのに、娘さんのとなりには梅の木が立っていて、美しい花が咲いていました。
 男はびっくりしてふすまを閉めようとすると、それに気づいた娘さんが、急に泣き出しました。
 男はあわてて、娘さんのそばへ行きました。
「かんべんしてくれ。ただ、あなたをひと目見たくて」
 すると娘さんは、涙をこぼしながら言いました。
「わたしはウグイスです。あと六十日で一緒になれるというのに、どうして約束を守ってくれなかったのです。このお経を読んでしまわないうちに、人に姿を見られては、もう人間になることは出来ません」
 そのとたん娘さんが飛び上がり、男は気を失ってしまいました。
 しばらくして男が目を開けると、娘さんの姿も屋敷もなく、山の中に一人でぽつんと座っていました。男のそばには古い梅の木があり、花の咲いた枝の上で一羽のウグイスが鳴いていました。 おしまい
福娘童話集「366日の昔話・2009年3月23日の新作昔話」



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