大井町で風呂屋をやってる親父がいたんだよ。
苦労を重ねて風呂屋の親父になったんだ。
その苦労はわかるけどね、やだったよ。
番台から商店街の奥さんたちを眺めまわす目がさ。
眺めまわされてんのをこっちが知らないとでも思ってんのかね。
どの店の奥さんたちも亭主に愚痴ってたよ。
けど風呂屋に行かないわけにもなんないからね。
それがさ、あの親父ってば選挙に立候補するってんだよ。
商店街のどの店の奥さんたちも怒ったね。
「風呂屋の親父に裸を知られてんのと区議会議員に裸を知られてんのはなんか違うんだよ。あたしゃ、いやだね。あんたアイツが立候補するのを止めとくれ」
でも風呂屋の親父は俺の夢を諦めろっていうのかと逆切れしたよ。
男は男の夢って言葉にわりと弱いのさ。
亭主たちがあてにならないからさ風呂屋の親父の女房に直談判したんだよ。
商店街の女たちが押し掛けて説得した。
風呂屋の親父はさ、一緒に苦労した女房には感謝してたからね。
女房が商店街から孤立すると泣いて怒るのには負けたんだよ。
議員さんになりたい。
なってやる、見てろよ。必ず這い上がってやる、そう決心して力仕事も耐えたんだろうさ。
風呂屋のボイラー焚きは重労働だからね。
まっ、あんな目付きで眺めてたら女を敵にまわすことになるさ。
自業自得だね。
気の毒だったのは板挟みになったあの親父の女房だよ。
我慢強くてよく働いて。
女房が議員に立候補するなら私たちだって文句はなかったんだけどね。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます