30年間のデフレを経過した今の日本の体たらくはどうか。バブル崩壊後は殆ど成長が止まり、GDPは2010年に中共国に抜かれ、今年は独国に抜かれる。一人当たりのGDP、物価、賃金などは一部のアジア諸国より低くなった。同じ職業でも外国で働けば凡そ倍の収入が得られるとも聞く。観光地に外人が溢れるのは、おもてなしが優れているのではなく要は安いからだ。
この間の国民の心理は、「給料は増えないが、物価も上がらないので困らないし、買い急ぐ必要もない。国も借金を抱えて苦しいのだから、消費者は節約し、生産者は低価格に努めるべきだ」であろうか。これは麗しき民の心であるが、思い違いでもある。この消費自粛、節約志向、コストカットという縮小意識が、困ったときは我慢と助け合いという日本人の美点で増幅され、自滅的に、長期のデフレを招いたのだ。
デフレ対策で大量に出た円は、ところで、どこへ行ったか。多くは貯金として死蔵されたか、利回り重視で海外投資に形を変えた。海外投資の利益は国際収支の黒字化に貢献したが、国内にお金が回らずでは、物価や賃金も上がりようがない。日本国民が享受すべき繁栄は他の国が受け取った。諸国が豊かになるのは良としても、その富で軍事力を増強させ日本を威嚇する国まで現われた。
国内でも金融投資に関する税を優遇した。その結果、株の売買だけの虚業で通常の仕事より遥かに稼ぐ連中が現れた。その上澄みを掬う生き方が頭のいいと称賛される。一方で、実際に労働が必要な仕事(農業、運送、建設、医療、介護など多数)には税優遇もなく、人手不足なのに低賃金に陥っている。ダブついた円が消費に回らず、国債を含む金融投資に空転しているのだ。
要は消費不足だ。社会構造の視点では、活発な消費を担う中間層が薄くなった。政策としては、まずは消費減税だ(続いて公共事業や補助金だ)。次に、財政均衡を目的とする国債償還や増税は止め、株取引の儲けや内部留保を設備投資や消費に誘導する策を講ずべきだ。人材不足も、安い労働力の発掘ではなく賃上げで解決を図るべきだ。そうすれば、日本はもっと豊かさを実感できる。