金融帝国主義の世界では、生産に関与しない金転がしの資本家が支配者だ。彼らは政治的に保護され、他は過酷な待遇に処される。例えば、金融取引税は優遇され、消費税は引き上げられる。企業収益は株主優先で、賃金に還元されない。金融不安の際は公的資金で救済され、ツケは国税で補填する。お金持ちの所得税はTax Heavenに逃避し、不足分は市民から取り立てる。かくて中間層が削がれていく。
理想の資本主義社会とは、厚い中間層が生産と消費を担いつつ民主政治に参加し、適量の通貨が徐々に増え続ける状態だろう。経済の成長期にはそうだったかもしれない。今や過剰設備を抱え、ゼロ成長・ゼロ金利のところに過剰な通貨を発行している。このいびつな資本主義の社会では、人々はお金の利殖で潤う少数の富者と多数の貧者に分断され、富者の有利なように世界が動くことになる。
遂には、超巨大資本が国境を無視して往来し、各国の主権を凌駕して国民の幸福を蹂躙する。民主国の首長は、雇われ社長よろしく、その場しのぎの景気対策に追われる。この延長線上には、生産業の衰退、民主主義の崩壊、国民主権の危機が待っている。破綻の日には、生産に与らない少数の富者が多数の貧者を生産に従事させ、その体制を富の力で強制・維持する。資本家による新たな搾取様式が完成するのだ。
この事態を回避するには、野放図な通貨発行の制限、金融市場の利益の回収(税制などによる)、そして、無限の利益追求の放棄が必要だ。しかし、いずれも難しい。前2つの政策は富者の抵抗に会う。最後の1つは、「欲望の充足に快感を覚える脳の構造」に由来するヒトの性(さが)に逆らう行為だ。歴史上の賢者はそのための智慧を提示したが、人類の多くはそれを体得しない。
智慧とは、自らを客観視し、大局を読み、自制する脳の上位作用である。もしヒトが己の欲望を制御する智慧を活かせなければ、次善の策として、欲望の暴走機構のないAI(人工知能)に政策の決断を任せることになろう。もっとも、AIが参加すれば世界が破綻から逃れられ人類は安泰かというと、それは思い違いかもしれない。むしろ生物としての絶滅が・・・。