星野村が一年で一番静かな時、
それは玉露の茶摘みの最盛期でしょうか。
普段みられるような道端や畑で楽しくおしゃべりしている姿もみられません。
筵に覆われた茶畑で村人達が一斉にお茶を摘んでいるからです。
雨の前に摘んでおこうと、時折慌ただしくトラックが通り過ぎます。
そんな日はなぜか鳥の声も少なく、蜂や蝶が花から花へと静かに渡っていくばかりです。
木の葉や花をひとつずつ描き留めていく作業を重ねる中で
木について随分考えましたが、
木は木としてその場所に何十年もいるだけです。
ただその存在しているということは、人にとっては大きなものだという感覚は間違いないのでしょう。
そうやっているうちに間合いがとれて見えてくるのか、
見たい表情が見えてきました。
少しはその場所に馴染んだということかもしれません。
それでもまだ始まったばかりなのだと思います。
掛け軸は北原白秋直筆の詩『蛍』