今回の展示につきまして、お忙しい中にも関わらずお越しいただいた皆様には深く感謝申し上げます。また、この度は多方面の方々のお陰で展示を実現でき、重ねて感謝申し上げます。
只今矢部屋許斐本家さまでは作品を展示中です。
展示は10月2日金曜日13時頃までとなります。
ご来店の際にはご覧いただければ幸いです。
ここで展示までの経緯と感じたことを少しまとめさせていただきます。
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そんな不安と共に始まった今年でしたが、少し世の中が穏やかになった春の日のことでした。
しばらくご無沙汰していた方の元へ、
と真っ先に伺ったのは星野村源太窯の山本源太さま(以下敬意をもっていつもの気持ちで源太さんと呼ばせていただきます)のところでした。
源太さんはご出身が私の母と同じ山陰地方で年も近いからか、母の持っていた感性を思い出すきっかけをよくいただく方で、八女に住んでいた頃から度々伺ってはお話を聞かせていただいておりました。5年前には大きな作品制作のためにと1年近く通ってお庭を描かせていただいたこともあり、勝手なことで恐縮ですが心の師匠だと思っております。
ある日源太さんのところへ伺うと、「新作だよ。」と茶葉やお湯、測りにタイマー、と色々なものと一緒にお皿のような茶器を持ってこられました。
ゆっくりと味わえるこの茶器は、お茶の香りや旨味だけでなくお茶の持つ『時』そのものを味わうものでした。こんなに文化的という言葉が似合う器が今年新しく作られたばかりなのだと思うと、感動するほかありませんでした。
この素晴らしい茶器を皆さまと共に楽しみたい、そんな想いを密かに抱きつつもあっという間に時は過ぎていきました。
しばらくして、イマヲカシさまを源太さんのところへご案内する機会をいただきました。
その時もまたこの茶器でおもてなしいただき、ゆったりとしたお茶時間を満喫しながらお話を伺いました。
源太さんのお話の中でも夏目漱石の『草枕』の玉露についての一節「濃く甘く、…」を朗読いただいたのが印象的で今もその豊かなひと時が忘れられません。
その頃、今秋は作品を展示したいと考えてはいましたが、世の中の流れに悩み迷っていました。そんな時、「いつ実現するの?今でしょ。」とイマヲカシさまに背中を押されて、思い切って展示をする方向で、そして源太さんの茶器もお楽しみいただける場を作れるようにと動き始めました。
その様にすぐに動けたのは、写生に伺っていた楠森堂さまの美しい景色と源太さんの器が重なり、関係する皆さまにご協力いただいたお陰でした。
また、私にとって心の故郷でもある八女で今秋のお祭りがお休みとなったことも展示のきっかけとなる大きな出来事でした。
本当に微力ではありますが秋を楽しむ気持ちの足しにでもなれば嬉しい、とささやかな展示をさせていただけるかお願いしたところ、矢部屋許斐本家の許斐さまに快諾していただきました。
色々なことがあっという間に揃ってカタチとなり、作品も一瞬できまって…
これまでで最もスピード感のある展示となりました。
同時に2箇所で展示することとなったのにも意味があり、楠森堂さまと矢部屋許斐本家さまは大正時代からお取引があったそうで、この見えない繋がりを僭越ながらも作品を通して何か表せなたならば、と試みました。
どちらの作品にも同じ画材、和紙に墨と紅を用いました。
昔ながらの製法で作られた画材は力強く、趣ある床の間で心地良さそうに揺れておりました。
今回のテーマは『源へ』といたしました。このテーマは、お庭で写生しながら魂とは何か考えさせられ、作品制作のためには絶妙なタイミングで『細工紅』という絵具を手にしたことから生まれました。
この『細工紅』は江戸時代の木版画で当時使われた紅色と変わらぬ製法で、今は伊勢半という会社で作られておりますが、会社の主なお取り扱い品目は化粧紅です。
ある日、井藤雅子さまのお話の中で伊勢半を知り、絵具もあるのかなと一緒に会社のホームページを覗いたのがきっかけでした。
紅花から僅かにとれる紅色を集めて作られた絵具はまるで生きているような存在感のある色味なのですが、年々色は変わっていくそうです。
今ここでしかないこの色を味わってほしいと作品にしましたが、展示して気づいたのは、この紅の色の変化こそ紅の持つ『時』であり、昔の人は色の変化をも楽しむことで紅の時間を暮らしに取り入れていたのだということでした。
そして、展示させていただいた2箇所ともお茶に関わる地域にとって大切な場所だということもあり、ゆっくりお茶を味わうこともまた、お茶の持つ時間そのものを楽しむことだと改めて感じました。
命あるもの、そして物や事にもあるそれぞれの時間をひとつずつ丁寧に楽しむことこそ豊かさであり、今大切にしたいことだという考えに行き着きました。
作品の展示はそのような豊かさを味わうきっかけにもなり、豊かさそのものでもあるのがまた興味深いと思いました。
楠森堂さまでの展示は3日間でしたし、矢部屋許斐本家さまでも在廊できるのはわずかな時間でしたが、この日この時をめがけて会場にお越しいただき改めて感謝申し上げます。
↑楠森堂さまの楠森河北家住宅新座敷にてお茶をお楽しみいただいた時の様子です。
↑搬入前日、できたての茶器を源太窯まで迎えに伺いました。
静岡県の磁器でできた茶器をヒントに制作されたそうです。
↑楠森堂河北さまとお客様、会場の様子です。
河北さまにはお煎茶のお席とともにお茶畑などについてお話いただきました。
期間中大変お世話になりありがとうございました。