僕らの出会いについて語るに当たり、体裁を整えたいと思うほど今の僕は暇ではない。烏が残飯を見付け出すように、僕は君を、君は僕を嗅ぎ出し、見付け出し、たかったのではないか。僕らは月曜日、(話せば長くなるが、当時、僕らの祝祭日は月曜日だった。日曜日は最も多忙な労働日だった)、大阪城へ行った。話せば長くなるが、当時、僕らは大阪に住んでいた。君も僕も地方出身者だった。君は島根県だったか、とにかく、田舎の村娘だった。丸々と太っていたね。美しさとも清楚さとも無縁の外観だった。ただ、内気な僕に急接近してきた腕前だけは一流だった。僕らは理容学校の学生だった。昼間は学び、夕刻から夜にかけては理容店で働いていた。親元を離れて、大都会の店に住み込み、見習いをしていた。似た者同士だった。
君は大阪城の城壁に背を凭せ掛けてじっとしていた。逃げもしなければ、誘いもしなかった。僕は開けたことのないドアを開けて、未知の世界へ入って行った。いや、逆だ。君は僕の唇を開け、僕の口の中に君の舌を入れてきた。僕は戸惑う。いや、戸惑っている暇もなかった。君の脚が僕の二本の脚の間に入ってきた。僕は二本の脚の間に君の太股を感じた。大阪城は大垣城よりも広かった。誰にも覗かれずに僕らは長い間抱擁を繰り返した。
君は寝屋川市に住んでいた。そうだ、君は僕と違って店に住み込んではいなかった。君は姉さんと一緒に下宿暮らしをしていたのだ。その日、君の姉さんは気を利かして外出してくれていた。僕らは小さなアパートで二人きりの甘い時間を過ごした。どうやって?読者の想像に任せてもいい。しかし、それでは話が続かない。
思い出した。その頃は、僕は理容学校を中退していて、実家に戻っていたのだ。君は僕の実家に手紙をくれたのだ。そこには和歌が認められていた。今でも思い出すことができる。しかし、その歌は、敢えてここには書かない。書きたくない。ただ、僕はその歌に即応して、すぐ君に連絡を取り、逢引をすることにした。僕は寝屋川の君の部屋を訪ねた。畳の上で直に僕らは絡み合った。僕は成熟した女性器(と言っても、彼女は10代だった)を初めて見た。丘に優しいfenteがあり、その間から桜色の二葉が出ていた。初な僕は喫驚し、急激に興奮から冷めてしまった。君の粘っこい、秘めやかな体液が、僕に君が異性であることを告げていた。愛が肉体関係を呼ぶのではなく、肉体関係の実現が愛を深めるのだ。不断に冷めやすい、そして、不断に蘇りやすい愛を。
僕らは二度と会わなかった。さよならも言わずに別れた初めての別れだった。理由もなく、男と女は別れることがある。あれは、別れる積もりもなく、結果として別れることになった僕の最初の経験だった。理由もなく? いや、理由はあった。甘い幻想が続かなければ、恋愛は破綻する。大阪城の石垣に囲まれて小鳥のように震えていたのは君ではなく、僕の方だった。
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