25日、午前7時、朝食。僕はレストランの一番奥の席を選んだ。外ではふわふわと粉雪が舞っていた。バイキング形式なので、ご飯と味噌汁を取りに遠征した。「お早うございます。またお会いしましたね」昨夜の華やかな女性が、茶碗にご飯をよそいながら僕に挨拶をしていた。他の誰でもない、この僕に対して。彼女の顔は朝から満開状態だった。僕が「お早う」と答えると、「覚えてますよ」と彼女は付け加えた。彼女の隣にはもう一人若い女性が味噌汁係として並んで立っていたが、僕も遠慮することなく「一度見たら忘れられない顔だよ、可愛いから」と言いながら自席に戻った。ここの味噌汁は天下一品だった。日本人で良かった。そう言えば、月並みか。味は、しかし、月並みではなかった。窓際に新聞を広げてパイナップルを食べていた頃だった。あるいは、食べながら読んでいた頃だった。言い方は幾つかある。少なくとも新聞を食べながらパイナップルを読んではいなかった。「お下げしてよろしいですか」また彼女が僕の傍にやって来た。彼女が近くにいると、周囲の空気が暖かくなる。僕の錯覚だろうか。錯覚に違いない。その錯覚が、しかし、嬉しかった。僕は彼女の瞳の奥を見詰めた。彼女も僕を見た。彼女は空き皿を手に持ったまま、僕の席から中々離れなかった。もう粉雪も新聞も目に入らない。誰がこんな場面を予想しえただろうか。
〈続く〉
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