テレビや新聞では連日のように、デモや紛争、経済などの国際ニュースが飛び交っている。何が問題になっているのか、理解したいと思いながらも、調べるのが大変だったり、よく分からないままのものも多いのでは。こうした国際問題でよく話題になるものを選び、ポイントを理解できるよう、基礎知識や前提知識を整理してみた。
(編集部 近藤雅之、小川佳世子、山下格史、山本慧)
戦中、ナチスから激しい迫害を受けたユダヤ人は、過去2千年もの間、国を持てず、世界を放浪していました。戦後、アメリカとイギリスを中心に同情の声が上がり、国連はユダヤ人のために、地中海に面したパレスチナ地域の3分の2の土地を分けて、イスラエルを建国させました。
しかし、その地域はユダヤ教、キリスト教、イスラム教共通の聖地であるエルサレムを含んでいました。そのため、イスラム教徒が多いアラブ民族の国々は、大事な聖地を奪われたと反発。1973年までにイスラエルと4度の中東戦争を戦いました。
親米国を増やすアメリカ
戦後、アメリカの中東での狙いは、ソ連のような共産主義を広めないことと、石油を確保することでした。
56年、スエズ運河の所有を巡って、エジプトはイギリスとフランスとの間で戦争状態になりました。この解決に一役買ったのがアメリカで、さらに、エジプトとイスラエルの領土問題も調停したことで、エジプトを親米国に引き込みました。
さらにアメリカは、武器の提供や石油を買うことで、サウジアラビアやオマーンなども親米国にしていきました。特に、イスラエルとは当初より密接な関係にあり、核兵器の技術を提供しているとも言われています。
反感を買うアメリカ
一方、イスラム教は、宗旨の違いから、おもにスンニ派とシーア派に分かれていて、両派の争いは7世紀から続いています。
その中でアメリカは、60年代、シーア派が多いイランの近代化政策を支援します。しかし、この欧米型の改革は民衆の不満を招き、結局、革命が起きて政権は倒れました。
敵対するスンニ派が多い隣国のイラクは、この混乱に乗じてイランに戦争をしかけます。イランが反米的になったことを快く思わないアメリカは、今度はイラク支援に回り、中東諸国のアメリカ不信を深めることになりました。
しかしその後、イラクが石油の利権を狙ってクウェートに侵攻したため、これに反発したアメリカと多国籍軍がイラクを攻撃して、湾岸戦争になりました。
さらに、欧米諸国から入るオイルマネーによって、「アラブ地域に貧富の格差が生まれ、イスラム教の平等の教えに反している」と考える過激な武装組織が現れます。その「イスラム原理主義」の一つであるアルカイダやタリバンは、欧米に反発し、アメリカの9・11同時テロなど、各地でテロ行為を繰り返しています。
これに対し、ブッシュ前米大統領は、イスラム過激派の温床であったアフガニスタンと、大量破壊兵器を保有している疑いがあったイラクに軍隊を送り、「世界の警察官」としてテロ撲滅の姿勢を鮮明にしました。
無責任なオバマ外交
ところが、オバマ大統領以降、アメリカの中東政策が一転します。2010年にチュニジアに始まった民主化運動がエジプトに波及した際、オバマ大統領は民衆デモを支持。長らく親米だったムバラク政権はあっけなく崩壊しました。
また、米軍は今年中にアフガニスタンから撤退する方針ですが、すでに撤退したイラクでは1月、都市ファルージャがアルカイダに占領されるなど治安は悪化しています。
さらに、核開発を進めるイランに対して続けてきた経済制裁を、オバマ大統領は一部解除することを決定。こうした弱腰な外交は、イランに核開発の猶予を与えかねないと、イスラエルやサウジアラビアからアメリカを批判する声が挙がっています。
(中略)
昨年、「アメリカは世界の警察官ではない」と宣言したオバマ大統領の下では、中東の混乱が収まることは期待できません。