次に、生まれた子どもの食物の問題を思考実験します。選択肢は、「親と同じもの・似たようなものを食べる」と、「親と異なったものを食べる」の2つがあります。
「親と同じもの・似たようなものを食べる」を選択しているのは魚類、爬虫類、烏、不完全変態の昆虫(バッタやカマキリなど)、「親と異なったものを食べる」を選択しているのはほ乳類と完全変態をする昆虫です。
つまり、ほ乳類は新生児期のみ母乳で育ち、完全変態する昆虫は幼虫時代と成虫で食物が異なります。この2つの方式で異なってくるのは、大人(成獣)になる前に消化管の仕様変更が必要か必要でないかです。
つまり、「親と同じもの・似たようなものを食べる」方式では、消化管の構造・機能はそのままでサイズだけ大きくすればいいが、「親と異なったものを食べる」方式では、成長の途中で食物が変わるために、消化管の仕様変更が必要になります。人間で言えば離乳期」昆虫でいえばさなぎの時期です。
完全変態する昆虫の場合には、たとえばカブトムシは、幼虫時代には腐葉土を食べていたのに、成虫になると樹液のみ、モンシロチョウの場合には、幼虫時代はキャベツなどアブラナ科植物の菓を食べていたのに、成虫になると花の蜜のみと、蛹の時期を境に食性が劇的に変化します。
この変化に対応するために、昆虫は幼虫と成虫の問に桶という時期を必要とし、桶の内部では幼虫の体のあらゆる組織を分解してドロドロ状態にし、それを成虫の体の材料にして、あらゆる臓器を成虫仕様に組み立て直すという荒技をくり出しているのです。しかし、この「体の設計変更」の時期は、体の内部は嵐に巻き込まれているようなもので、極めて脆弱な状態です。
実際、蛹の期間はほとんど動けなくなり、周囲に擬態すぜいじやくるしか身を守る手段がなくなってしまいます。人間でも離乳期は脆弱な状態です。
たとえば、トウモロコシ栽培が定着した地域で、離乳食として柔らかく煮たトウモロコシの齢を与えるようになってから、離乳開始後に下痢が始まる乳児が増え、低タンパク血症による乳児死亡が増加したという報告があるからです。
「肉食主体の雑食動物」である人類の乳児にとって、炭水化物のみの離乳食は、時として命取りとなることを示しているのです。