義賊伝説は世界中にある。ロビン・フッド伝説もその一つである。
十二~十三紀頃のイギリスにおける伝説上の義賊の一人で、緑の服を着て、
シャーウッドの森で愉快な仲間たちと暮らし、悪代官を懲らしめ弱いものを助けるために
颯爽と現われる。現存する最古の説話は、「ロビン・フッドの事績」16世紀前半の刊本)であるが、
実在の人物であるという確認はされていない。
E・J・ホブズボウム『匪賊の社会史』は、民衆にとっての義賊のイメージを次のように
規定している。
①不当な罪ゆえにアウト・ローになった。
②悪を正す。
③豊かな者から奪い、貧しい者に与える。
①正当防衛または正当な復讐以外に殺人をしない。
⑤許されるならば共同体に迎え入れられる。
⑥民衆に賞賛され、助けられ、支援される。
⑦裏切りによってのみ死ぬ。
⑧姿を見せず、不死身である。
⑨国王や皇帝には敵対しない(悪いのは在地の支配者、聖職者である)。
このように、義賊のイメージは、自由、ヒロイズム、正義の夢、自由で平等
な仲間関係、権威に対する無頓着さ、そして弱き者、虐げられた者、欺かれた
者の擁護者などである。そこには、民衆の正義の感情あるいは正当性観念が表
われている。南塚信吾『義賊伝説』(岩波新書)は、民衆の義賊観を民衆の正義観、
権力観を示すものとして捉え、義賊を民衆・地域権力の相互関係のなかでイギ
リス型、ラテン・アメリカ型、東欧・ハンガリー型の三つの類型化を試みている。