「メンタリスト」DaiGo氏が、登録者250万人近くのフォロワーを有する自らのYouTubeチャンネルで「ホームレスの命はどうでもいい」「 生活保護の人たちに食わせる金があるんだったら猫を救って欲しい」等の差別発言をしたのは8月7日であった。
画像の出典はいずれもNPO法人「ほうぼく(抱樸)」のホームページ
その発言に対して多方面から批判が集中したことから、8月13日になって2回にわたって「謝罪」の動画を配信。
この中で、(反省の証としてか?)「長年ホームレス支援をしているNPO法人「抱樸(ほうぼく)」の奥田知志(おくだともし)氏と連絡をとって、現地に行き当事者・支援者から話を聞いて学びたい」と表明したのである。
DaiGo氏が謝罪の中で突然「抱樸」に言及したことについて、それまでの彼の言動から違和感と疑問を感じざるを得なかった。
「抱樸」の存在自体を知っていたのだろうか?
彼は「奥田氏と連絡をとって現地に行く」とまで具体的に発言しているが、「抱樸」側の見解はどうなのか?
「抱樸」は北九州市で困窮者・ホームレスの自立支援活動を主として行っている認定NPO法人で、理事長の奥田知志氏は、日本バブテスト連盟・東八幡キリスト教会の牧師でもある。
その活動は「NPO法人ほうぼくー抱樸」(https://www.houboku.net)サイトで詳細を知ることが出来る。
画像の出典はいずれもNPO法人「ほうぼく(抱樸)」のホームページ
また、YouTubeにも「ほうぼくチャンネル」が開設されていて、現代の貧困問題を考える上で貴重な情報を得ることが出来る。
今回のDaiGo氏の一件についても、その経緯等が「ほうぼくサイト」のトップページで、「DaiGo氏の差別発言に関する見解と経緯、そして対応について」と題した奥田知志理事長の報告(8月16日付け)が公開されていて、疑問は解消した。
その報告には、理事長の奥田知志氏と共著を刊行し、また「ほうぼくチャンネル」でも対談している「茂木健一郎」氏の存在があったことが記述されていたのである。
この「奥田理事長報告」は印刷するとA4サイズで7ページにも及んでいる。
ーー以下、その要約
◉これまでの経緯について
・抱樸とDaiGo氏とは全く関わりはなかったが、8月13日に茂木健一郎氏から奥田氏に「友人のDaiGoと言う人が問題になっている。話をしてあげられないか」との連絡があった。
・学びを受けるにあたって「抱樸」が示した条件
1.抱樸での学びに関しては途中経過を含めて全て配信等はしない。
2.抱樸の宣伝や応援、寄付は一切行わない。
・これに対し、DaiGo氏から「承知しました」「今後はこの件に関して一切の情報発信しません」との約束をもらった。
◉DaiGo発言の問題点についてー見解
1.命の普遍的価値を認めていない
・「必要のない命」「軽い」「どうでもいい」などの発言は、命の絶対的で普遍的な価値をないがしろにするもの。
・「意味のない命」あるいは「価値のない命」は殺して良いと言うことになりかねない。現にそのような事件は起こっている。
・ホームレスの就労率について触れられているが、「頑張っているか、いないか」が命の価値付けの基準となってはいけない。
・自立支援と言う事柄と生存権や命の普遍的価値の事柄は別である。
・第一に命の普遍的価値が確立されなければ自立支援は成立しない。「自立できる人だけ支える」と言うことになってはいけない。
2.ホームレスや困窮を個人の問題(自己責任)とし、経済状況など社会的要因を考えていない
・困窮や貧困は、個人の問題を超えて社会状況など社会的要因が大きく影響している。この点を踏まえず「個人の問題」「努力が足りない」「自己責任」と言ってしまうことで問題が矮小化される。
・自らが責任を果たせる社会であるために、周囲の助けや公的支援が必要。自己責任論は社会や国が無責任でいるための方便となっている。
・生活保護受給者への偏見や自己責任論の強調によって、当然の権利である保護申請が一層しづらくなる。
3.社会の存在自体を否定している
・発言の中に「僕の税金の使い道として」と言う表現があるが、税金は国民が受ける公共サービスの対価ではない。公共サービスの受益者は広く国民全体で、この中には当然非課税世帯の方々も含まれる。それが社会と言うことである。
・税制、つまり富の再配分は国が行う最も重要な役割。
・累進課税によって収入の多い人が多く税金を払い再配分を図ることで平等の社会が実現される。そのような中で社会保障制度が整備され生活保護は国民全体に対する権利として存在している。
・このような仕組みを否定する事は、この社会の存在そのものを否定することにつながる。
4.困窮やホームレス状態にある人々に対する偏見や憎悪を誘発する
・ホームレスは「いないほうがよくない?」「邪魔」「プラスにならない」「臭い」などと語りかけているが、これは困窮者やホームレスに対する偏見や憎悪を煽る行為である。
・人間は群や社会に「そぐわない人間を処刑して生きてきている」との発言は、昨年の渋谷バス停での女性殺害事件でも明らかなように、既にそのような傾向があり、影響力のあるDaiGo氏が誤った方向に扇動することは極めて危険である。
5.困窮状態にある人や生活保護受給者、ホームレスを「犯罪」予備軍のように捉えている
・人間はお金に困ったら「何をするかわからない」、ホームレスや生活保護の人を虐げると「マフィアとかになっちゃう」など何らかの裏付けもなく困窮者やホームレス状態にある人が犯罪者になるかのように発言している。
・抱樸は、何度も「住民反対運動」にさらされてきたが、繰り返し語られたのが「ホームレスは危険だ」と言うことであったが、実際に何が危険なのかについて尋ねると具体的な回答はなかった。
・困窮者は「何をするかわからない」と言う言葉は社会的排除やヘイトクライムを生み出すことになる。
◉終わりに
・33年間のホームレス支援の現場ではこのような発言を幾度となく聞き、偏見や差別との戦いであった
・「1人の路上死も出さない」「1人でも多く1日でも早く路上からの脱出を」「ホームレスを生まない社会を創造する」と言うことを掲げて活動してきた私たちにとって、必要のない命などない。
・彼の学びを引き受けることについては賛否あるが、DaiGo氏が自分を見つめ直し多くを学ぶことを願う。
・まずはDaiGo氏自身が発言の問題がどこにあるかを深く知り、誰に謝罪するのか何を謝罪すべきなのかを深く考えてほしい。
・私たちはこれからも社会に居場所がなく路上で暮らしていく人たち、困っているのに助けてと言える人誰かがいない人たち、生きることに疲れ果て自分が困っていることにさえ気づけない人たち、差別と偏見に傷ついた人たちと共に頑張って行く。
ーー要約はここまで
この報告では8月16日時点で、まだ学びは開始されていないとなっている。
その後、YouTubeチャンネルには新たな配信はされていないようであるが、「Dラボ」という独自の有料チャンネルには投稿を再開しているらしい。今後、DaiGo氏から「抱樸」に関しての情報提供はなされないと思うが、謝罪が本心からのものであるかは、注目しておかなければならない。
気がかりなのは、現在進行中の「自民党総裁選」立候補者の中にも“DaiGo氏と似通った認識”を有している方がおられるような気がすることである。例えば、LGBT法案への対応など。
政治家は差別を排除し、誰もが個人として尊重される社会を目指して活動することが何よりも大事である。
DaiGo氏と共に、学び直されてはどうかと思う次第である。
※見出し画像は、奥田知志著「『逃げおくれた』伴走者ー分断された社会で人とつながる」(2021年1月16日出版)の表紙