その日はまとわりつくようなベトベトした雨が降っていて,そこいら中に静かに横たわっている遺体から流れた血が地面に滲んでいる光景はまるで地獄絵図の様だった。僕たちはW.W.としての任務は果たせず,怯える一般市民7,8人を引き連れブリキに石が当たる様な甲高い着弾音にいちいちビクビクしながら背を屈めて横歩きに進んでいた。真っ白な装甲車は僕たちを庇いながらのろのろとずっと先の建物の方を目指していた。
突然すぐ右隣にいたニット帽の15歳くらいの少女が僕の腕を力一杯引っ張った。僕は危険がないか様子を確認するのに必死だったから最初はその少女の手を払う様にして装甲車の進む方向に集中していた。
すると少女が大きな声で叫びだしたので驚いて振り向くと,その娘が僕の斜め後ろを指差しながら何かを訴えている。現地語はいくつかの単語を知るくらいだったから,その娘が何を言ってるのか全く理解できなかったけど,彼女の震える指先を見てすぐに気づいた。
そこには複数の遺体が無造作に転がっていて一見では救い様のない恐ろしい状態だったが,何かが微かに蠢いているのが見えた。それは苦痛に眉間を歪ませながら時折顔をあげる顔面蒼白の少年だった。少年の吐く息が弱々しく断続的に空中に消えていく。
僕はすぐさま足元のセメントの破片を拾い上げて装甲車の側面をガツガツと叩きながら「止めてくれ」と叫んだ。
「正気か?スモーが飛んでくるぞ」
車両の天辺で警戒に当たっている髭面の兵士が独特な発音の英語で不機嫌そうに叫んだ。
「撃ってこないよ」
「どうしてわかんだ?」
「あいつら,お前を怖がってるんだぜ」
兵士はケケケと笑って車両を止めさせた。
「合図しろよ」
「オーケー」
いつからか現地の装甲車には得体の知れない連中が乗り込んでいる。青いヘルメットカバーやベレー帽を被ってはいるがフランスの外人部隊だ。前のミッションでは数人の日本人兵士にも遇って唖然としたこともあった。今回は髭面の西アジア出身らしき連中が多かった。
「無理するな,ウィンプ」
最後尾にいたビクターが叫んだ時には,僕は既に少年に走り寄っていた。母親だろうか,少年に覆い被さる様にして息絶えている女性の重たい遺体を引き上げていると,装甲車の方からさっきの少女と白髪の老人が手伝いに来てくれた。
「危ない,危ない!」
僕は半分意識がなくなっている下半身が血まみれの少年を何とか抱き上げて2人を追いたてながら走って戻った。
ビクターはライフルを構えて警戒にあたっていたが,その間幸運にも銃撃はなかった。スナイパー達にも慈悲といものがあるんだろうか。
いや,そんなもんヤツらは持ち合わせているもんか。僕はすぐに考えを改めて大きな溜め息をついた。
突然すぐ右隣にいたニット帽の15歳くらいの少女が僕の腕を力一杯引っ張った。僕は危険がないか様子を確認するのに必死だったから最初はその少女の手を払う様にして装甲車の進む方向に集中していた。
すると少女が大きな声で叫びだしたので驚いて振り向くと,その娘が僕の斜め後ろを指差しながら何かを訴えている。現地語はいくつかの単語を知るくらいだったから,その娘が何を言ってるのか全く理解できなかったけど,彼女の震える指先を見てすぐに気づいた。
そこには複数の遺体が無造作に転がっていて一見では救い様のない恐ろしい状態だったが,何かが微かに蠢いているのが見えた。それは苦痛に眉間を歪ませながら時折顔をあげる顔面蒼白の少年だった。少年の吐く息が弱々しく断続的に空中に消えていく。
僕はすぐさま足元のセメントの破片を拾い上げて装甲車の側面をガツガツと叩きながら「止めてくれ」と叫んだ。
「正気か?スモーが飛んでくるぞ」
車両の天辺で警戒に当たっている髭面の兵士が独特な発音の英語で不機嫌そうに叫んだ。
「撃ってこないよ」
「どうしてわかんだ?」
「あいつら,お前を怖がってるんだぜ」
兵士はケケケと笑って車両を止めさせた。
「合図しろよ」
「オーケー」
いつからか現地の装甲車には得体の知れない連中が乗り込んでいる。青いヘルメットカバーやベレー帽を被ってはいるがフランスの外人部隊だ。前のミッションでは数人の日本人兵士にも遇って唖然としたこともあった。今回は髭面の西アジア出身らしき連中が多かった。
「無理するな,ウィンプ」
最後尾にいたビクターが叫んだ時には,僕は既に少年に走り寄っていた。母親だろうか,少年に覆い被さる様にして息絶えている女性の重たい遺体を引き上げていると,装甲車の方からさっきの少女と白髪の老人が手伝いに来てくれた。
「危ない,危ない!」
僕は半分意識がなくなっている下半身が血まみれの少年を何とか抱き上げて2人を追いたてながら走って戻った。
ビクターはライフルを構えて警戒にあたっていたが,その間幸運にも銃撃はなかった。スナイパー達にも慈悲といものがあるんだろうか。
いや,そんなもんヤツらは持ち合わせているもんか。僕はすぐに考えを改めて大きな溜め息をついた。