2021/1/8各誌の報道によれば、韓国司法が「従軍慰安婦」への賠償を日本政府に命じた判決を出したとのこと。この判決はある意味”画期的”な判決だ。またこの2021/1/8という日は日韓関係のターニングポイントして記憶されることであろう。
韓国の司法判断については「徴用工」問題にて日本企業に賠償義務があるとした判決が過去あったので今回の判決は驚きはないが、「徴用工」判決と同様に衝撃の大きな判決ではある。
”画期的”という意味は、「韓国国内法のみにて韓国内の司法判断にて他国政府の主権免除を認めずに有罪とした。」ことは国際法を鑑みて通常はやらない相当に大胆な司法判断であるということである。主権免除は国家の商取引については認められなくなっていることは了解している。また私自身、商取引以外の国家の行為について”無限に”主権免除を適用すべきかは疑問を持っているが、ひとまずは国家の主取引以外の主権免除は最大限尊重すべきものだろう。
多くのこの件に関する記事に書かれているように、もし韓国の今回の司法判断が許されるならば”竹島の不法占拠を日本国内法で韓国政府を裁いて賠償請求できる。”とか”韓国軍のベトナムでの戦争犯罪行為をベトナム国内法で韓国政府を裁いて賠償請求できる。”とかいろんな例をいくらでも作ることができる。しかし自国法で他国政府を裁くことは通常はやらない。やってしまえば「国際社会」というものが成り立たなくなってしまうからである。
(「国際社会」を作っている国際法そのものが西欧世界主導のものであることは留意すべきだが。)
「国際社会」がその秩序を守りながら正義を実現するために、戦後「国際社会」がさんざん苦労してきたわけである。国際司法裁判所(ICJ)を作り、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(ICTY)を作り、ルワンダ国際戦犯法廷(ICTR)を作って試行錯誤を繰り返してきたわけである。今回の件はこれらの努力を全くすっ飛ばしている。
韓国司法関係者も司法関係者であるかぎり、これらのことは十分承知であろう。つまりはそれを十分承知で今回の判決を出したその意図は?と考えざるを得ない。
ナチスドイツの第2次世界大戦時のギリシャでの虐殺行為に対するドイツとギリシャの国際的な裁判経緯がどのようになったかを今回の事件と対比してみたい。
(ちなみに私は「従軍慰安婦」の数には諸説あることは了解。強制連行して「従軍慰安婦」としたとの証拠は発見されていないが韓国女性をだましたことはあったであろうとの立場である。)
A)ギリシャにてナチスドイツによる虐殺事件発生(ディストモの大虐殺)
① アジアにて日本による「従軍慰安婦」制度を作るという人権蹂躙行為発生
B)ギリシャ被害者はギリシャ裁判所でドイツが賠償すべきとの判決を得るも、ギリシャ法務大臣の事前許可がなかったため判決は履行されず。
②「従軍慰安婦」被害者は韓国裁判所で日本政府が賠償すべきとの判決を得る。
C)ギリシャ被害者はドイツの裁判所に訴え出るもドイツ裁判所は却下
③「従軍慰安婦」被害者は日本の裁判所に訴え出るも日本裁判所は却下(これは②より前のことでギリシャ・ドイツの件とは時系列が異なっている。)
D)イタリアの裁判所は、ギリシャ被害者がイタリア国内にあるドイツ財産を受け取ることができるとの判決を行う。ギリシャ被害者はドイツNGOの所有するイタリア国内資産を得る。
E)ドイツがイタリア政府をD)の件で主権免除せよと国際司法裁判所(ICJ)に提訴
F)ICJはドイツの主権免除を認める判決を出す。
G)イタリア政府はD)の判決をイタリア最高裁で確定させる。
( ギリシャ被害者へ渡ったドイツNGOの所有するイタリア国内資産が最終的にどのようになったのかは資料不足で不明。)
上記D)からG)に対応する今回の「従軍慰安婦」裁判の件の事象はまだ起きていないが、この流れが今後の成り行きを暗示している。もし、今回の判決により韓国にある何らかの日本政府資産が「従軍慰安婦」側に渡った場合、上記E)へ進むしか方策はないであろう。つまり日本政府によるICJ提訴である。韓国はICJ自動応訴国ではないから実際のICJの裁判となるかは不明だが、応訴拒否は韓国にとって大きな国際的負担になることは間違いない。「徴用工」問題も韓国にある日本企業資産が「徴用工」側に渡った時点で同様の方向となるであろう。
いずれにせよ、日韓関係は今後さらに厳しいことになる。
(私の尊敬するすでに亡くなられている東大名誉教授で国際法学者の大沼保昭先生(アジア女性基金で「従軍慰安婦」問題に多大い尽力し、かつ韓国NGOのかたくなな姿勢に失望した先生です。)が今回の判決を聞いたらなんと悲しむであろうか.................。)