MJQによってジャズへの扉が大きく開かれた。もう迷う必要はない。ほどなくして、『ヨーロピアン・コンサート』のレコード(但しVol.1のみ)がライブラリーに加わった。今の私がこんな状況になったら、それこそCDを買いまくってMJQ三昧という日々を送ったに違いない。
でも、当時はレコードを1枚買ったらその月のお小遣いはなくなってしまう。1ヶ月間は好きでも嫌いでも「その1枚」ととことん付き合っていかなければならない。だから、『ヨーロピアン・コンサート』の次には何を買うべきか。幸いにも、高校の同じクラスにジャズにめちゃくちゃ詳しい人間が居たおかげで、それは『フォンテッサ』と一発回答が出た。モダンジャズがいよいよ絶頂期を迎えた時期にあたる1956年に誕生した傑作アルバム。
MJQのレコードは、おしなべて(土臭さを売り物とするようなところもある)ジャズには似つかわしくないお洒落な装丁のものが多い。なかでも際だった存在はこの『フォンテッサ』で、次点は『コンコルド』だろうか。実質的なリーダーであるジョン・ルイスの欧州趣味の反映と言ってもよさそう。他では、肝心な映画はどうなった?の『大運河』の絵画的なジャケットも印象深い。
もちろん、素晴らしき音楽あってのジャケットと言え、オープニングを飾る『ヴェルサイユ』でのミルト・ジャクソンとジョン・ルイスの絶妙コンビが聴くもののハートをがっちり掴む。クールとホットが交錯するコレクティブ・インプロヴィゼーション(二人以上のプレーヤーが同時進行で奔放にアドリブ合戦を繰り広げる)による斬新なサウンドはこの作品の白眉。
魅力満載のオリジナル作品に加えて、斬新なアレンジが施されてたスタンダードナンバーの演奏を聴くのもMJQの醍醐味といえる。とくに素晴らしいのはレコードのB面で、「虹の彼方に」から「ブルーソロジー」を挟んで「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」から「ウッディン・ユー」に至る一連の美しい流れ。レコードを買った当時は、何度も何度もB面を繰り返して聴いたのだった。
ただ、このレコードには大きな難点があった。それは録音(強いて言えば、レコードのカッティング)。『ユーロピアン・コンサート』は音がいいという評判を勝ち得たことにはちゃんとウラがあったわけだ。何が問題かというと、それはベースが殆ど聞こえないこと。これでは、まるでMJT(モダン・ジャズ・トリオ)じゃないか!と文句のひとつも言いたくなるところだ。そうならないのは、とにもかくにもジョン・ルイスとミルト・ジャクソンの二人が素晴らしく、彼らの演奏を聴いているだけで満腹感が味わえるようにレコードができているから。
でも、幸いにも最近出たリマスター版CDでそんな問題点は一気に解消された。今度はベースが(当たり前だが)ちゃんと聞こえる。いや、そのことで改めてパーシー・ヒースの卓越したプレーがMJQのサウンドの土台をがっちり支えていたことがわかるのだ。この録音のために用意されたスタインウェイのピアノの音響効果もしっかりと感じ取ることができる。ジョン・ルイスがいかにこの録音に賭けていたかがよくわかる。
もうおそらく買った当時のレコードで『フォンテッサ』を聴くことはないだろう。でも、たとえ中身は「MJT」であっても、思い出がたっぷり詰まっているレコードを手放すことは永遠にできそうもない。
◆The Modern Jazz Quartet “Fontessa”
1) Versailles (John Lewis)
2) Angel Eyes (Matt Dennis & Earl Brent)
3) Fontessa (John Lewis)
4) Over The Rainbow (E.Y.Harburg & Harold Arlen)
5) Bluesology (Milt Jackson)
6) Willow Weep For Me (Ann Ronell)
7) Woodyn You (Dizzy Gullespie)
John Lewis : Piano
Milt Jackson : Vibraphon
Percy Heath : Bass
Connie Kay : Drums
Recorded on January 22nd, 1956