ええ、お笑いを申し上げます。
顔かたちが違うにつけまして、みな、お心持というものが違いますようでございます。
大変、この、忘れるという、ものを忘れるそそっかしい方がよくございますように、自分がかけている眼鏡を探してみたり、マスクの上から煙草を吸ってみたり、人の名前を忘れる、これはまあ、我々でもございますが、中には甚だしい方がいらっしゃいますようで・・・。
ああ、向こうから来る人、どっ . . . 本文を読む
金のない熊さんが隣の家から鯛の頭と尾をもらった。身のない骨の部分にすり鉢を載せると、まるで一匹丸ごとあるように見える。それで満足していると、兄貴分の友人がやってきて、すり鉢をかぶせた鯛を見つける。兄貴は「これを肴(さかな)に酒を飲もう」と言って、酒を買いに行く。
兄貴が酒を買って来たとき、熊さんは、今さら鯛の身がないとは言えなくて、隣の猫に鯛を持って行かれたと言ってごまかす。兄貴はしかたなく . . . 本文を読む
江戸時代、果師(はたし、または、はてし)と呼ばれる職業があった。骨董(こっとう)の仲買商だ。高価なものを安く買い取って、高く売りつけるのが商売。
さて、ある果師、江戸では、なかなか高価なものが見つからないので、掘り出し物を求めて地方を歩き回っていた。足を棒にして、探したが収穫がなく、川のほとりの茶店で一休みしていると、そばで猫が使っている皿を見ると、『高麗の梅鉢』という逸品だ。「しめた!」と . . . 本文を読む
昔、金持ちで意地の悪い主人がいて、その屋敷にお菊という女中が働いていた。お菊はかなりの美女だったので、主人の男はすぐにのぼせてしまった。
主人はお菊に惚れたことを打ち明け、生涯そばで働いてほしいと言い寄ったが、お菊の返事は「私には構わないでほしい」という冷たいものだった。
主人はひどく怒り、女が、それもこんなにいい女が自分を袖にするということが、どうしても納得できない。意趣返しをしないで . . . 本文を読む
江戸後半の時代。世の中がとても平和なころだった。町人の間でもさまざまな習い事が流行っていた。長唄、小唄、常磐津、舞踊など、ちょっと高級な部類では、義太夫、茶道、華道などがあった。逆に変わったところで、喧嘩指南なんていうものもあった。およそ趣味と言われるものにはたいてい指南所がある。近くに指南所があれば、だれでも寄ってみようかと思うのは人の人情。
ある長屋の住人で暇人の男の家に、同じく暇な友人 . . . 本文を読む
ある大店の主人の家に近江屋が久造という下男を連れてやってきた。主人は、その下男の久造が大酒飲みで、一度に五升は飲むと聞いて、「もし、五升飲めたら、お前さんにお小遣いをあげよう」と言った。
近江屋はそれを聞いて言った。
「うちの久造がもし五升飲めなかったら、あたくしがご主人をご招待させていただきますよ。」
久造はちょっと弱った顔をして言った。
「もし五升飲めなかったら、うちの旦那様に . . . 本文を読む
江戸時代の話。大きな木綿問屋、秩父屋の若旦那が重い病気にかかった。何の病気かわからないが、日ごと体力が衰えていく。恋煩いかと思った父が問いただすと、実はミカンが食べたいのだという。紀州へ行った時に食べたミカンが忘れられないのだとか。
しかし、今は夏真っ盛り。ミカンなどあるはずがない。誰にも言えずに悩んだ末に病気になってしまったのだそうだ。
大旦那からこの話を聞いた忠義者の番頭は小さいころ . . . 本文を読む
夜遅く酔って帰ってきた大店の若旦那、幸太郎。家に入ろうと戸を叩くが、使用人を先に寝かせて一人で待っていた父親が戸を開けてくれない。
「戸をたたくのはどなたでございましょう?」
「わたしです。幸太郎です。開けてください」
「幸太郎という息子はおりますが、店をめちゃくちゃにする、どうしようもない道楽者でヤクザ者でございます。家に置いておけませんので、勘当しようと思っているところでございま . . . 本文を読む