ある大店の主人の家に近江屋が久造という下男を連れてやってきた。主人は、その下男の久造が大酒飲みで、一度に五升は飲むと聞いて、「もし、五升飲めたら、お前さんにお小遣いをあげよう」と言った。
近江屋はそれを聞いて言った。
「うちの久造がもし五升飲めなかったら、あたくしがご主人をご招待させていただきますよ。」
久造はちょっと弱った顔をして言った。
「もし五升飲めなかったら、うちの旦那様に散財させることになるんだな。そいつは困った。ちょっと待ってもらいませんか。ちょっと考えさせてください。」
久造はそう言って、表へ出て行った。しばらくして戻ってくると、「さあ、飲ませていただきます」と一升入りの大杯につがれた酒を五杯続けて飲んでしまった。
大店の主人、「いや、恐れ入ったよ。私の負けだ。さあ久造さん、お小遣いだ。少ないが受け取っておくれ。ところで、ちょっと聞きたいんだが、さっき考えて来ると表へ出て行ったが、あれはいくら飲んでも酔わないおまじないでもしてきたのかな?よかったら、教えてくれないか?」
久造、「あれは何でもありません。私は五升なんて酒を飲んだことがないもんで、心配だったから、それで、表の酒屋で、試しに五升飲んできたんですよ。」
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