夜遅く酔って帰ってきた大店の若旦那、幸太郎。家に入ろうと戸を叩くが、使用人を先に寝かせて一人で待っていた父親が戸を開けてくれない。
「戸をたたくのはどなたでございましょう?」
「わたしです。幸太郎です。開けてください」
「幸太郎という息子はおりますが、店をめちゃくちゃにする、どうしようもない道楽者でヤクザ者でございます。家に置いておけませんので、勘当しようと思っているところでございます」
幸太郎が「二度と道楽はしない」と詫びても、相手にしてもらえない。
「入れてもらえないのなら、この場で死にます」
この手はもう父親には通じない。そこで、幸太郎は、父親を責めて言った。
「道楽者だとかやくざ者というが、そのやくざ者を育てたのはどこの誰だ!」
「いい加減にしろ!倅(せがれ)らしいことを一度でもしたことがあるのか。馬鹿野郎!」
どうしても入りたい息子とどうしても入れたくない父親との口げんかが戸を挟んで続いた。
幸太郎は最後の手段に訴えた。
「それなら、家に火をつけるぞ!」
これを聞いて、とうとう頭に血が上った父親は息子をぶん殴ろうと思って、六尺棒を持って外へ飛び出した。
「待て!」
しかし、追いかけても、息子のほうが足が速い。とうとう見失い息を切らしていると、隠れていた息子がその隙にさっと家に入って、戸を閉めてしまった。
父親があきらめて戻ってくると、戸が閉まっている。誰か店の者が戸を閉めたのだろうと思い、戸を叩いた。
すると、中からと幸太郎の声がする。
「戸を叩くのはどなたでございましょう?」
「お前の親父だ」
「わたしの親父はおりますが、店をめちゃくちゃにする、どうしようもない道楽者でヤクザ者でございます。家に置いておけませんので、勘当しようと思っているところでございます」
「親を勘当する奴があるか」
再び戸をはさんで親子喧嘩が続いた。
幸太郎、「世間並みの父親らしいことをしたことがあるのか?馬鹿野郎!」
父親、「俺のまねばかりしやがって、それなら六尺棒を持って出てこい!」
[注]六尺棒(ろくしゃくぼう):樫の木などで作った長さ6尺の棒。防犯・警備・護身用などに用いた。
『古典落語』
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