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落語「あくび指南」

2014-03-19 | 落語

 江戸後半の時代。世の中がとても平和なころだった。町人の間でもさまざまな習い事が流行っていた。長唄、小唄、常磐津、舞踊など、ちょっと高級な部類では、義太夫、茶道、華道などがあった。逆に変わったところで、喧嘩指南なんていうものもあった。およそ趣味と言われるものにはたいてい指南所がある。近くに指南所があれば、だれでも寄ってみようかと思うのは人の人情。

 ある長屋の住人で暇人の男の家に、同じく暇な友人が訪ねてきて言った。

 「ちょっと付き合ってくれないか?」

 聞けば、町内に新しく「あくび指南所」というところができたのでちょっと行って、習ってみたいという。ただ、一人で行くのはちょっと心細いので、一緒に行ってくれというのだ。

 話を聞いた暇人もあきれるばかり。あくびなんて放っておいても出てくるもの。そんなものに金を払って稽古するとはばかばかしい。
 
 ところが、頼みに来た友人はやる気満々で、指南するというからには、きっと普通じゃないんだ、一度指南を受けてみる価値がある。だから、「そばにいてくれるだけでもいいから」という。根負けした男は「俺は絶対やらないぞ」と念押しをして、しぶしぶ同行した。

 歩いていくと、確かに「あくび指南所」という看板が出ていた。

 先生だという人が出てきて、愛想よく応対してくれた。

 「そちらの方は見学ということですね。けっこうです。」

 さて、いよいよ欠伸の稽古が始まった。先生は春夏秋冬、それぞれに違ったあくびがあるので、まず、季節はいつにするかと希望を聞く。そう聞かれても、いつがいいのかわからない。

 「では、一番楽な夏のあくびにしましょう」

 夏の昼下がりに舟遊びをしているという設定。ゆったりと船に揺られ、キセルをくゆらしながら船頭に声をかけながら、思わずあくびが出るというのだ。

 体のゆすり方、声のかけ方、そしてあくびの出し方、そういったことを指南するが、なかなかうまくいかない。

 「舟もいいが、退屈で退屈で、ふわああっ、ならないね」

 本人は要領がなかなかつかめない。先生も根気よく繰り返し教えるがうまくいかない。

 そのうち、見物していた暇人はいい加減に疲れてきた。

 「待っているこっちの身にもなれよ。退屈で退屈で、ふわああっ、ならないね。」

 思わず大あくび。それを見たあくび指南の先生。

 「うまい、あなたは器用だね」

(参考:『古典落語100席』)



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