三軒長屋の端に鳶の頭の政五郎、真ん中に伊勢屋勘衛門の囲い女、一方の端に剣術指南の楠運平が住んでいた。
鳶の頭の家には昼間から若い者が集まっては、酒に酔ったり、喧嘩したりして騒ぎが絶えないばかりか、伊勢屋勘衛門の下女をからかったりする。剣術指南の家は、昼夜問わず剣術の稽古でやかましい。
とうとう勘衛門の妾が音を上げて、旦那の勘衛門に引越ししたいという話をしたところ、勘衛門は、「どうせ、もうすぐ、ここはわたしのものになる。もうすぐ賃貸の期限が来る。それから鳶の頭のところは物置にして剣術の先生のところは庭にでもしようと思ってる」と言った。
妾の下女が、この話を鳶の頭の上さんに話してしまった。怒った上さんが、頭に伝えると、頭は楠運平の所に出かけて、作戦を立てた。
翌朝、楠運平が正装して、勘衛門を訪ねて言った。「門弟も増え、手狭になったので、転宅することにしたが、貯えがないので、三日間千本試合をしたい。これが始まると、真剣試合とあって、腕の五、六本、首の一つや二つ飛び込むかもしれない」と言った。これに驚いた勘衛門は転宅費用に五千両出して、千本試合をやめてもらうことにした。次には鳶の頭、政五郎が現れて、「転宅することになったが費用がないので、花会をすることにした。ただ、これは刃物沙汰になりかねない」と言うのだ。これにも驚いた勘衛門は五十両だして、花会をとりやめてもらう。
勘衛門曰く、「おい頭、楠先生も引越しなさるって言っていたが、おまえはどこに越すんだい?」
頭曰く、「へへえ、あっしが先生の所へ行き、先生があっしの家へ越します。」
(1807年、喜久亭寿暁『滑稽集』)
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