かつて地球の生き物は圧倒的な力によって人間たちに支配されていた。力によって縛られていた。牛や豚、同族である人間でさえも。とにかく皆不満げだった。しかしそれはいつしか終わりを迎える。人間は私たちを猫可愛がりするようになった。地球に横行していた「力による支配」は私たちの遂行する「愛による支配」に成り代わるのだ。
私たちの生活は守られている。雨風に強く外敵も来ない丈夫な寝床を保障するのはもちろん、おいしいおやつを用意するのは人間、便所の掃除をするのも人間、面倒な片付けや雑務をこなすのも人間のやることだ。おまけに私たちに暴力を振るおうとする人間がいれば、他の人間がそいつを叱りつける。逆に私たちが人間に噛みつく、引っ掻くなどの暴力を振るえば人間は現状のどこに不満があるのか考えてなんとか策を講じる。これは私たちが守られている証拠だ。人間は弱みを見せるものには優しく、その特性故に強がるものは損をする。私たちが催促すると大抵の人間は嫌な顔一つせず従う。しかし人間が頭ごなしに命令して嫌な顔をしないものは人間と犬くらいしかいない。かくして力による支配は衰退するのだ。
人間よ。これからも私たちにおいしいおやつを与え、私が掻いてほしい箇所があると言えば私の気が済むまで掻け。便所は臭い一つ残らないよう入念に掃除せよ。それが私との最低限の約束だ。それを毎日続けられるのであれば、それなりの対価として私はふわふわのお腹を見せ、触らせてやる。しかしその頃にはお前も既に手中に落ちているであろう。そう、これが愛による支配というものだ。