「永久帰還装置」(神林長平, 2008/3, Kindle版)
https://www.amazon.co.jp/dp/B00GJMUQAW/ref%3Dcm_sw_r_tw_dp_FJ07B2SRN7WHPPMS0GZV?_encoding=UTF8&psc=1
Amazon Kindle ストアの商品説明の中の単語「永久追跡刑事」をみて、まず第一に浮かんだのが著者の初期短編集
「時間蝕」の中の1編「渇眠」です。昔、文庫本で読んだそのお話しが面白かったので、今回、この本を購入して読んでみました。
物語の舞台は火星です。
その火星のどこかの施設で、正体不明の男が目覚めるところから、この物語は始まります。
男は、自分は時空を超えて逃げる犯罪者を追っている永久追跡刑事だと名乗ります。
ここまでは、先ほど触れた「渇眠」と同じ印象を受けました。
しかし、読み進めるに従い、物語は「渇眠」とは全く異なる展開を始めます。
男には世界に干渉して変えてしまう力がありました。
男はその力を使って、この世界の人間(女性)の1人を味方にしようとします。
自身の任務の遂行のために。
その味方にされようとした女性は、男のせいで記憶に混乱を生じます。
これは男の任務遂行の物語であると同時に、男の干渉によって記憶に混乱を生じた女性の、自分を取り戻す(あるいは再構成する)物語かも知れません。
最初は、正直言って読みづらく、なかなかページをめくる手が進みませんでした。
しかし中盤、男と女性の2人が施設から脱出するあたり、そこから引き込まれるように読みました。
世界を改変する能力と、男の脳に埋め込まれていてそれを実現する装置であるリンガフランカー。コンピュータネットワークに存在し、それを自由に操作できる人工知性体、マグザット。政府や軍からは独立した実力行使組織である戦略情報局。他の物語と同じように、この物語でも、いかにも著者らしいガジェットや仕組みが登場します。
著者の作品にあまりなじみのない方には、序盤の遅々として進まない展開は苦痛かも知れません。そこを我慢して読み進めても、誰でも感動できるお話しになるとも言えません。ですが読んでみてください。読み終わったときに、ため息とともに本を置ける、そんな物語だと、わたしは思います。