セブンすヘブン ~Seventh Heaven~ 

I'm in Seventh heaven. We are on cloud nine.

『しばいぬベティの憂鬱』後編

2015-12-09 | 短編


ある日
京美さんが電話を切った後に
ガッツポーズで
「やったわ!」って。
かなり珍しいこと。


要さんも喜んでる。
「べティ、よかったなぁ!」
何のこと?
話が見えないんだけど。


「そこにいる訳じゃないって
  わかってるつもりだけど
   やっぱりべティを連れて
    行きたかったものね。」


「代替わりで犬OKになった。
  ほんとにありがたいな。」


ふたりは何だか盛り上がってる。


わたし
おうちの中のハウスで
しばらくふたりを見てたわ。


何だかわからないけど
ふたりが楽しそうで
すごくうれしかった。


何日かして。
その日は朝からあわただしく
「べティ、おでかけよ。」
どうやらこの間の
『やったわ』に
連れて行かれるみたい。
京美さんと何度も目が合って
そのたび京美さんは
すごく笑顔。


要さんは
わたしとすれ違うたび
わたしの頭をなでなでする。


気分的には悪くないけど
訳がわからないわ。
説明してほしいわ、ほんと。


わからないまま
車に乗って
わからないまま
車を降りて。


大きな門。
段があるから
ふたりはまたいで。


わたしは
のぼっておりた。


石畳の道。
脇は砂利道になっていて
わたしはそっちに降りて歩いた。


要さんも
京美さんも
だんだん口数が減っていった。


石がたくさん並んでる。
わたしのハウスが並んでるみたい。


そのうちのひとつの前に来ると
要さんも京美さんも
その石のお掃除をはじめた。


手持ち無沙汰な気分のわたしは
ふたりの間を行ったり来たり。


「やぁ いらっしゃい。」
後ろから声をかけられた。
「ご住職、お世話になっております。」
要さん達は
ご住職という人に
深々と頭を下げた。
彼は手を合わせて
同じように深々と頭を下げた。


「連れて来たかったのは
  この子ですね。」
その人はわたしにも
手を合わせて
深々と頭を下げたわ。


「お名前は?」
「べティです。」
「ほう、べティ?」


ほら!
聞き返してきたわ。
優しそうな人だけど
この人も似合わないって
思ったのね。
『べティ』


「エリザベスのべティですか?」

え?
なにそれ?

「そうです!そうです!」

京美さんが『やったわ』くらい
喜んでる。


ベティって名前は
エリザベスって名前の愛称なんですって。


「よく、おわかりになりましたね。」

「えりちゃんだからエリザベスってことですね。」


ご住職という人はしゃがみこんで
わたしの顔をまじまじと見て
「べティちゃん。
 えりちゃんのかわりに
  たくさん親孝行してくださいね。」
わたしの背中に
そっと手をおいたわ。


えりちゃんというのは
要さんと京美さんの
娘さんで
わたしが生まれる少し前に
病気で亡くなったそう。


悲しくて悲しくて
えりちゃんのこと
口にできなかったって。


「でも、いつからかな?
 “べティ”って呼ぶと
 “えり”って呼んでる気分になって。」





ほんとにほんとに
よーく考えて
今日の出来事を
頭の中で
整理したわ。



わたし
柴犬の『べティ』
柴犬よ。


大きな声で言っちゃうけれど
とともお気に入りの名前なの。

パパとママがつけてくれた
すてきな名前なの。






















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『しばいぬベティの憂鬱』前編

2015-10-22 | 短編

わたし
柴犬の『ベティ』
柴犬よ。
し・ば・い・ぬ。

ベティって。

大きな声では言えないけれど
あまり気に入ってる名前じゃない。

『もも』ちゃんとか
『こはる』ちゃんとか
『ゆり』さんっていうのもいいわね。
そういう名前に憧れる。

わたしの毛色は全体的には茶色。
背中には赤い毛がひとすじ。

もちろん立ち耳。
尾は巻き尾で右巻き。

日本原産の日本犬といえば
秋田犬・甲斐犬・紀州犬とかいるけれど
外見も内面も
わたしたち柴犬が一番
日本犬らしいんじゃないかしら。

わたしは
日本犬として誇りを持っているわ。

義理は欠きたくないから
必ず笑顔で接するけれど
ご主人様の
要さんと京美さん以外には
出来れば触られたくもない。

もちろん
わたしたち
柴犬は絶対的な人気があるわ。
だけど
時々居心地が悪くなることがあるの。

この間は
本当にひどかった。
茶柴の小鉄は
すぐ誰かにケンカを仕掛ける。

スタンダードプードルのミッキーのところに
わざわざ行って
「あんただって狩りをする犬だろう。
 何でそんなに気取ってるんだい。」

はじめミッキーは毅然として
小鉄の挑発に乗らずにいたけど
あんまり回りをうろちょろするから
とうとう立ち上がって
小鉄を捕まえようとしたの。

逃げ足には自信のある小鉄。
ひらりと逃げたわ。
だけどスタンプーのミッキーも
かなりの足の速さ。
追いかけっこになったら
ミッキーが有利。
すぐ勝負がつくところ、
黒柴のサブがボールを追いかけてきて
二人の前を横切ったの。

そしたら
何故か小鉄とサブのケンカが始まって。
あっけにとられたミッキーは
飼い主さんのところに戻ったわ。

小鉄の右耳と
サブの左手から血が出ていたわ。
ほんとに
どうしてそこまでやっちゃうのかしら。

「ほら、また柴よ。」
「怖いわよね。」

他の飼い主さん達のお話は
京美さんにも聞こえていて
すごく悲しそうだった。
要さんが
「ベティのこと言われてるわけじゃないんだから。」
そう言って慰めてた。
その通りよ。

確かに騒ぎをおこす柴犬は多いわ。
逆に騒ぎを嫌う柴犬も多いのよ。

もっと広場を走り回りたいけど
騒ぎに巻き込まれたくないから
「お父さん、もう帰ろう。」って
来たばかりなのに
白茶柴のケンシロウくん。

だからホントは言ってやりたい。
小鉄やサブみたいに
騒ぎを起こす柴犬達に。
いいかげんにしなさいよ。
日本犬としての誇りはないのって。

けれど
それをこの名前が邪魔するのよ。
『ベティって名前に誇りはあるのかよ。』
そう言われたらどうしよう。

この名前は京美さんがつけたの?
それとも要さんがつけたの?
目が合うと
いつもふたりは優しい笑顔。
お気に入りのボール、
投げてもらって遊ぶことにしたわ。













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