MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2496 岸田政権とガソリン補助金

2023年11月16日 | 社会・経済

 岸田文雄政権の経済政策があまりに「ヤバすぎる」。国民から次々と搾り取った税金を取り巻きにばら撒いて票につなげている姿はまるで悪代官のようだと、作家の金田信一郎氏が嘆いています。(『週刊東洋経済』2023.11.18号「ヤバい会社列伝」)

 氏によれば、中でも悪質度が高いのがガソリンの補助金とのこと。そもそも卵とか乳製品とか生活必需品のほとんどが高騰する世の中で、なにゆえガソリンだけ安くしようとするのか。つまり、政策の公平性・妥当性に全く欠けていると金田氏は言います。

 しかも、疑問なのはその効果。既にガソリン補助には6兆円もの税金が投じられている。これは国民一人当たり5万円に相当し、4人家族なら20万円を補助してもらった計算になるということです。

 「そんなにもらった記憶はないぞ…」と実感がわかないのも当然のこと。そもそもこのガソリン補助金は、消費者から最も遠い石油元売りの(独占的な)大企業がその懐に入れているもの。本気で国民を救う気なら直接ガソリンを買った消費者に(例えばガソリンスタンドのレシートで税の還付をするなどの手段で)直接補填すればいいものを、あえてそうした手段を取っていないのが岸田政権のヤバさだというのが金田氏の認識です。

 なぜそうしないのか…それは岸田首相が石油会社の経営陣に恩を売りたいからだと氏はこの論考で指摘しています。

 売上高10兆円を誇る最大手のエネオスHDは前会長が石油連盟会長で、しかも経団連の副会長だった人物(←因みに彼は、沖縄でホステスの服を脱がせ、ケガまで合わせたことで退任に追い込まれている)とのこと。石油産業と政界との距離は極めて近いと金田氏は話しています。

 そして件のガソリンの元売り市場は、エネオスと出光興産(アポロ)の2社でシェア8割を占めるという極端な寡占状態にあり、中小零細がひしめく(下流の)ガソリンスタンド業界に対し圧倒的に有利な立場にあるということです。

 で、補助の結果、肝心のガソリン価格は十分に安くなっているのか…。確かに元売りが示す建値(仕切り価格)はある程度は安くなっているようだ。しかし、補助金の全てが反映されているかどうかは誰にもわからないと氏はしています。

 ただ、ひとつはっきりしているのは、世界的に原油価格が高騰しているこの苦境の中で、石油大手2社が空前の利益を上げているということ。両社の決算を見ると、エネオスHDは今期の営業利益を3400億円と見込んでおり、出光も同様に1400億円の利益を見込んでいるということです。

 さて、そもそも石油元売りは寡占状態にあるので、極めて容易に(恣意的に)価格のコントロールができる。そして、普通なら公正取引委員会が黙っていないこうした状態が許されているのには、業界固有の歴史があると金田氏はこのコラムに綴っています。

 第二次大戦後、エネルギーを西側経済に組み込まれた欧米石油メジャーからの輸入に頼り、中下流に(不安定な)中小企業がひしめくというピラミッド状の構造となった日本の石油業界。そこの2度の石油ショックがあって、「石油業界を守る」という(ある意味「過保護」な)エネルギー安全保障の考え方が政官に強く根付いたというのが氏の認識です。

 かつては出店規制まで敷いて保護していたガソリンスタンドに加え、石油メジャーに太刀打ちできなかった元売り企業群を1980年代から官主導で再編。結果、1990年に13社あった元売り企業は、今では件の2強とコスモの3社に集約されているということです。

 そして、その再編劇では、常に巨大企業が優先されてきた。敢えて言うならその経緯は、収益力は低いが図体だけは大きい肥満体の大手企業が、高収益で筋肉質の中堅企業を飲み込む歴史だったと氏は言います。

 それを可能にしたのが、2009年に成立した官主導の「エネルギー供給構造高度化法」の存在。これにより(効率的な生産をしていた)米エクソン・モービルや英蘭ロイヤル・ダッジ・シェルなどが日本から撤退せざるを得なかったということです。

 結果、エネオスと出光は努力することなく巨大企業へと膨張した。今回のガソリン補助金はそこに大量のエサを与えるようなもので、肥満化がさらに進むだろうというのが、このコラムで金田氏の指摘するところです。

 しかも、ガソリンの価格の半分近くは税金で占められている。まず「ガソリン税」と呼ばれる揮発油税と地方揮発油税が乗っかり、さらに石油石炭税、地球温暖課税まで上乗せされる。そしてトドメは、これらの税金も足した合計額に対して10%の消費税が課されると氏は説明しています。

 既に多くの指摘があるように、これは二重課税の典型とされており、これをやめるだけで消費者は救われる。それなのに岸田政権は「さらなる増税」と「肥満企業優遇」のための政策を続けようとしているということです。

 「国民のため」「消費者のため」に名を借りた数兆円規模の(国策)大企業優遇策。岸田政権は結局のところ、(しれっと)自分の保身と選挙のことしか考えていないのではないかと話す金田氏の指摘を、私も一つの視点として興味深く読んだところです。



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